武藤吐夢 BLOG

読んだ本感想を書いています。 毎月、おすすめ本もピックアップしています。

カテゴリ: 読む価値あり

里見八犬伝の現代版?。
おもしろかったが、これは別の犬人間の物語だと思う。


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ネタバレあり

小学生の頃、図書館で里見八犬伝を読んだ記憶がある。
内容は、姫様が犬の嫁さんになり、仁義がどうのこうの・・・。
つまり、はっきり覚えていません。

この物語は、里見八犬伝の現代版?。
贋作・里見八犬伝なのだそうです。
ジャンルとしては、ライトノベルファンタジー。
軽いです。アクション多めで、読みやすく、展開も早く面白い。

伏 鉄砲娘の捕物帳 として アニメ映画化されています。
監督は『千と千尋の神隠し』で監督助手を務めた宮地昌幸、脚本に『コードギアス 反逆のルルーシュ』の大河内一楼、ビジュアルイメージに『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』でデザインワークスを手掛けたokama。なんか、すごい・・・。でも、聞いたことなかった。

主人公は、14歳の猟師の浜路。
軽い雰囲気の女の子ですが、銃を持つとゴルゴ13ばりのハンターに早変わり、凄腕です。
兄がいて、この二人で賞金稼ぎになる。

何を狙っているかというと・・・

伏という化け物。
これは犬人間です。

ここに、冥土新聞という瓦版屋の男 滝沢冥土 が加わります。
冥土は、里見八犬伝の作者、滝沢馬琴の息子で
冥土新聞は、犬人間の事件を追いかけた人気の紙読み物なのです。

伏(犬人間)とハンターのバトルの展開から、一転
滝沢冥土の書いた 贋作・里見八犬伝の世界へと移ります。

ここが、物語の核です。
里見八犬伝とは、一味違う、少しファンタジー色の強い
それでいて人間物語の色合いもある
かなり引き込まれた
ここだけで、いいと思う
犬人間発生のルーツが解き明かされていきます


次に、また、現代に戻ります。
そこで、玉梓の呪いの部分が歌舞伎によって明かされます。
この芝居の作者も 滝沢冥土
その演者の中に、女形の信乃がていて、犬人間
芝居見物をしていたハンターの浜路兄妹は、信乃の正体を見破り銃撃戦
江戸の街の地下に張り巡らされた地下道に、落っこちて 浜路と信乃のランデブーが始まる
その終着点は江戸城の天守閣の上。そこで激しいバトルという漫画のような展開の見せ場があり、そのままラストに・・・。

高校生や大学生のアクション好きの男子が読むと
「すごく、おもしろい」ということになると思います。
20代、30代の人になると、里見八犬伝と贋作・里見八犬伝の比較という楽しみ方もできるのかもしれません。
悪くはないし、楽しめるが、アニメ向きだなと思った。
活字で読むと少し不満足な感じになる。

ページ数473
読書時間 12時間

平成は、何の時代かと問われれば「震災」の時代となるのです。


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平成は、どんな時代かと問われたら
・戦争がなかった時代
・日本の経済力が衰えた時代
・自然災害が多発した時代
と答えると思う。

僕は、運よく自然災害の犠牲から逃れた。
関西の人間なのに、阪神淡路の大震災では、別の地におり
台風などの自然災害の被害も受けていない

この物語の主人公「彼」は、東北の震災の被害者だ。
彼が、水害の地である奈良の十津川をバス旅行する話し。

たいくつです。
バス停に停まると、解説みたいに地誌や歴史の説明が始まる
そこに、過去の悲惨な思いでが入ってくる

例えば、震災後、墓参りに行くと墓が流されてなかった。
地が塩の臭いがしたという感じだ。
墓って高台にあるでしょ
そこまで津波が来たってことですよね。

盲目の知人が、震災後、生き抜いた。
でも、仮設住宅にいた彼は、突然、どこかにいなくなる。

こういう話しが、たくさん。

何だか、やりきれなくなってくる。
たぶん、これは日本人の中に震災被害のDNAが残っているから
それとも震災が共通認識だからだろうか?

関西の年配の人が、良く言う
「テレビ見ていると、地震速報出るけど、あれ見ていると心臓がドキドキする」
トラウマだと思う。

僕には、東北地震で親と妹を亡くした知人がいる。
彼は、震災の後、故郷に行き
そのことを知る
でも、叔父さんだけは生きていた
その叔父さんが、半年後、忽然と仮設住宅から姿を消した
自分だけ生き残った罪悪感なのかなと知人は言う
この本を読んでて、この話しを思い出した。

日本人の中にある
災害に対する共通認識が
こういう災害文学を読むと
辛いという反応を引き起こさせるように思う

小説としては、おもしろくなかった。
でも、色々と考えさせられた。


ページ数 274
読書時間 6時間
読了日 4/11

あの「黄泉がえり」の17年後を描いた続編。
加藤清正まで蘇ります。


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「黄泉がえり」は名作でした
誰にだって、生き別れた人がいます
友達、恋人、ペット、両親・・・
だが、生物学の常識として、一度死んだものは復活をしません
そんなことを許したら、世界が混沌に巻き込まれてしまう
でも、復活して欲しいという願望はあるわけで、その読者の思いの琴線を揺さぶったのが前作でした
だから、たくさんの読者を獲得し映画化されヒットしました

本作は、その17年後
舞台は熊本
熊本地震の被害があった後の世界
またしても、同じような奇跡

死んだ人が蘇ります。

前作同様に、色んな人の視線で、蘇えった人の物語が描かれるのだが
前回は、みんな消えた中。一人だけ生き残った男の人がいた
その人の娘のいずみが鍵になってくる
いずみは、蘇り人と妻との子です
ハイブリッド的な存在です
彼女の通学地域、行動範囲で、続々と、蘇り現象が起きる
皆が彼女の存在を意識している

その中には、ありえない人たちまで復活する

加藤清正
ミフネ恐竜

加藤清正が出てきて、話しは面白くなってきました
だが、違和感もある
エンタメの為に、この物語の大切な流れを壊すのではという不安です
続編というのは、前作の流れの中に存在していて
それを手にとった読者は、ほとんどが、前作のファンなのだから
前作の世界観を意識して、その世界に浸りたいと思い読んでいる
つまり、感動を求めている
せっかく、蘇った。その大切な人との別れというラストに向かっているわけです。
加藤清正が、現代に蘇ったコメディは求めていない

話しが崩れるかと思ったら、この清正さんが上手く動いている。
崩壊した熊本城への哀愁と
熊本再建への市民の思いを
この歴史上の人物を通して垣間見ることができるという構造になっていた

お決まりのスーパー台風との闘い
黄泉がえり人の活躍で、台風を回避し熊本市民は助かる
そして、彼らは消えるのだが・・・

今回は、復活する
加藤清正、ミフネ恐竜・・・、皆、生き返る
ハッピーエンドです。

人の強い思いが蘇らせる
困難を可能にする
それがモチーフ

変なラストだが、そこに熊本も不死鳥のように復活するぜという作者のメッセージを感じた




ページ数 499
読書時間 11時間
読了 4/9







 展開は奇抜で楽しめたが、それはエンタメとしてだった。
 これは純文学だから、メッセージがあると思うのだが、不良から饂飩屋になった課程?
    正直に言うと、よくわからない。

 いきなり、月光仮面風の正義の味方の右翼の新聞配達の老人が登場するが、すぐに、フェイドアウトしていく。そこで混乱させられた。視点を変えられると読者は混乱する。
 次に、元不良でUDON屋のウキタが登場。
 友達の冬木が出てくると、完全に物語に引き込まれていた。
 冬木の父親は、伊東四朗に似ていて、女装して女性を犯そうとして、言うことを聞かない女性たちを殺しまくる殺人鬼だ。
 2000万の遺産が冬木に転がり込んでくる。で、家を買うことになるが、その不動産屋の女をみんなで回そうとする。その顛末を冬木は妻に話した。さらに、その2000万も精神に問題があった母親の嘘と判明。妻は子供を連れて出ていく。読んでいる時はおもしろかった。だが、冷静になると何のこっちゃかわかんない。

 刑務所にいた冬木の父親に面会に行く。
 その時、死について話しをする。

 死ぬのって、歯に障るのよ。知って、冷たいラザーニャみたいなもの。芯まで固くって、齧れたもんじゃない。そして、命は温かいスープ・・・

 って言葉を残して死んでしまう。
 この言葉に、ウキタはとらわれるが、その父親は、最初に出てきた正義の男に殺されてしまう。
 
 ラストで、この言葉が歌の引用だとわかる。
 冷たいラザニア、かちかちに凍ったままの・・・

 人生って、何か意味があるようでいて、本当は、たいして意味なくねぇか?
   そういうことなのかな。


読書時間 4時間
読了日 3/23



  難解だった・・・。

 野球のボールを投げて「地球を一周しろ」と叫ぶ。
 どうも、この冒頭のバッティングセンターでのシーンが奇妙な世界への導入となっているようだ。

 最初、死なない男というのが出てくるが、急に殺人事件になっていく。
 先生が、巨大な罠にかかって死んでいて、その近くに少女がいた。 
 その少女は、心に問題があり、精神科医の紀子という女性と暮らしいる。
 この少女が、その罠に先生を押した画像が見つかり、刑事が・・・。
 だが、世界は混沌としていて、みんなが自殺しまくっている。 
 殺しまくっている。警官が泥棒し、人が人を殺す。
 まさしく混沌だ。
 どうも、その元凶は死なない男にあるようだ。
 自殺しても死なない男の動画が、ウイルスだか、病原菌だかのように伝染していく
 「トライアル」という死の挑戦が始まる。それが自殺の始まりだ。

 太陽に照らされた褐色の十二階建てのマンションから次々と飛び降りていた。
 各階のベランダから、ばらばらと落ちていく住人の雨。


 最初は、自殺、次は殺人、モラルが消えて、人々がおかしくなっていく。
 登場人物たちは、おかしいと感じ始める
 夢の中、お芝居の中・・・
 ご都合主義の展開に呆れる

 何が言いたかったのか、最後までわからなかった。
 死なない人間という有り得ない者が出てきたことで
 生態系が混乱し、それで世界が秩序を失くしてカオスに陥ったとでも解釈するしかない。

読書時間 4時間
読了日 3/23

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 東京オリンピックが終了した三年後、日本は景気後退の局面に入り労働者不足から大量に移民を受け入れていた。これは近未来の物語である。作者の想像力に脱帽。

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 
 オービタル・クラウドという作者の過去作も近未来を描いていた気がしたが、これは藤井流なのか。
 東京オリンピックの3年後の話し・・・。

 主人公の舟津怜は、とんでもない両親から逃げる為、他人の戸籍を買い、仮部諫牟として、ベトナム料理屋の上階の六畳一間に暮らしていました。偽造戸籍です。
 設定か、こういうことになっているので、やたらとベトナム人の名前が最初に出てくる。もちろん、これは、移民がたくさんいるという印象を残すため。近未来という設定の為、やたらとIT系のドローンやQRコードとかの用語が出てくる。そのようにして、読者に物語世界の背景を示唆しているようだ。かなり作為的だと思うが雰囲気は出ている。

 仮部の仕事は、消えた外国人労働者の捜索と説得。724というベトナム料理のチェーン店に雇われている。在日外国人問題。
 ファムさんという、ベトナム人の美人で、とても勉強のできる子がターゲットだ。
 彼女は、東京オリンピックの跡地にできた東京デュアルって、働きながら学べる大学があって、そこの生徒で、724という店の社員。失踪中です。
 その大学は、学費、寮費、食費も学校が貸してくれる。奨学金みたい。ただし、協賛企業に入社したら借金が半分になるという。理想郷のような学校だ。
 日本の国が貧しくなったので、大学に経済的な理由で行けない人には助かる場所のように、僕には思える。

 仮部は、簡単に彼女を見つけ出す。
「この学校で、人身売買が行われています」と彼女は言う。
犯罪小説かと思いきや・・・

 つまり、この金は借金である。奨学金と同じで返さないといけない。卒業するころには、800万を超える。そうなると、生徒は協賛企業に入社して借金の半分負担をして貰うしかない。
 
「借金をして職業の自由がなくなることを、わたしやファムさんは人身売買と呼んでいるの」とNPOの人が言う。P179

この小説の核は、ここだ。
 バルクールの描写が素晴らしいとか、色々あるが、そこが大切なのではない。
職業選択の自由がないのは、それは自由とは言えない。ここが重要だ。
 それって、闇金に借金して、マグロ漁船に乗せられたり、アダルド動画に出演させられるのと似ている。ヤクザは、借金を返すまで骨までしゃぶるのだ。
自由を奪われるのは問題だ。

 不自然な時代錯誤のストライキとかも、これを際立たせる為の演出だと僕は思う。

 理想的と思えたシステムにも、穴は必ずある。
 僕なら、80%OKなら、全部OKとか言いたくなるのだが
 藤井さんは、作品に違和感を生じさせてまで、ここにこだわった

「東京デュアルの人身売買」と叫び、偽物の先導者に踊らされた哀れな民衆(学生)・・・
たぶん、彼らは、自分の主張していることの意味も把握していないだろう・・・
そんな数万の学生たちの代表と、学長を対話させる。公式討論会だ。
中継されているのに、そこで、学長は、東京デュアルの問題を認めるという結末。

 エンタメ小説としては微妙だが、このアイデアは好きです。
 十分に楽しめる近未来小説だと思う。


ページ数:360
読書時間 7時間
読了日 3/20


東京の子 [ 藤井 太洋 ]
東京の子 [ 藤井 太洋 ]

夏目漱石は、I LOVE YOU という言葉を「月が綺麗ですね」と訳したのは有名だ。主人公の高校生も、自分の思いのたけを言葉に託して愛する人に告白する。言葉にこだわったミステリー作品でした。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。



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夏目漱石の訳した I LOVE YOU  の訳である「月が綺麗ですね」が最も好きな日本語であると・・・

 転校生の外国人アキ・ホワイトは言った。
 この物語は、言葉に精通している元天才書道家の高校生と、アキ・ホワイトの物語である。
 4つの短編によって構成されており、1つ1つが言葉にこだわった推理読み物になっている。

 1話目は、回し手紙の読み違えから、発展した三段構えの謎解き。ラストに驚愕の事実が待ち構えている。
 ミステリーなので、ネタバレは避けたいが、これじゃ雰囲気も伝わらない。
 その三段構えの2番目を少しだけネタばれさせます。
 ぎなた読みを使った謎解きです。
 例えば、ぱんつくった という文章があります。
 、の位置を変えると意味が変わってきます。
 パン作った
 パンツ食った
 こういう錯覚を使った謎解きです。

 2話目は、名前の話し。
 「彁」って漢字の読み方は何か?
赤ちゃんの名前ですが、その名付け親の母親は記憶喪失。
 ラストに、強烈なオチありです。

 3話目は、目の不自由な女の子としゃべれない男の子の物語。
 二人は学園祭で、本を売っています。二人で書いた話し。
 そこには暗号が・・・。
 少しネタばれさせます。
 それは愛の告白の暗号

君の目になりたい
 この言葉が出た瞬間、僕まで「よっしゃー」と叫んでいました。

 4話目は、二人の主人公の愛の話し。
 「月が綺麗ですね」に変わる告白の文字を言の葉探偵の彼が探し出し
 屋上に書くって話しです。
 ここもネタばれさせます。
  
 彼女の名前は、アキ・ホワイト 日本名は、小早川亜希

 だから、彼は と言うことの葉を選んだ。
 希う
 転じて
 恋願う

 この想い、彼女に通じたのか?
彼女は、立ち去る前に、こう言います
「月は綺麗ですか?」
「月は綺麗ですね」が I LOVE YOU と言う意味だから
 その疑問形
 私のことを、愛しているのですか?
どうやら、彼の気持ちは伝わったようだ。

 謎解きと恋愛とミステリー。軽いノリなので、読者を若者に限定させるつくりになっているのが残念。想定していたよりも楽しめました。



ページ数:304
読書時間 5時間
読了日 3/16


ことのはロジック (講談社タイガ) [ 皆藤 黒助 ]
ことのはロジック (講談社タイガ) [ 皆藤 黒助 ]

かわいらしい狼の写真を見ていると、今まで抱いていた彼らに対する偏見が吹き飛んでしまう。狼の研究者のフィールドワーク研究が凝縮した魅力的な作品でした。
 
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 狼というと、赤ずきんに出てくる悪い狼。もしくは、狼男。
 絶滅、人食い、危険な獣・・・「がぉーーー」というイメージ。
 この本は、そのネガティブなイメージを払拭してくれます。
 たくさんの微笑ましい狼の写真だけでも癒されます。
 じゃれ合う狼はかわいい。

 この本の作者は、元弁護士の狼研究家です。
 オオカミ研究施設ウルフパークの研修生に選ばれたことが、きっかけで、この世界に入りました。
 仕事は、狼をウォッチすること。
 この本には、彼女が見た狼の姿。フィールドワーク研究が書かれています。

 まず、僕の目にとまったのは、狼の教育方法でした。
 狼の親は、外に対して一致した行動をとるP28
 人間だと、子供が悪さをしても、ママが叱るが、パパのところに行くと味方をしてくれるという矛盾した行動をとります。同じ事柄でも、気分によって叱ったり叱らなかったり。
 狼は、そうではなく。両親が一致した行動をとり叱ります。
 子供を間においての両親の対立などは存在しません。

次に、驚いたのは狼のリーダーについての記述でした。
 イメージしていたのはボス猿。集団の中で戦って勝った猿がボスになりメスを独占する。そういう形でした。
 どうも、狼はそれとは違う。決闘なんて、ほとんどない。合理的な理由でリーダーを決めていたようです。キーワードは、経験でした。さらに、狼のリーダーには女性的な繊細で気配りができるというスキルも要求されるようです。もちろん、ある程度の腕力も求められます。つまり、総合力です。

リーダーの地位と攻撃性は関係がない。たえず威張ったり挑発したりするリーダーは、権力の喪失を恐れているためであり、リーダーに相応しい人格ではないP45

どうも、狼は独裁者を嫌う性質があるようだ。

 僕たちは、カラスが嫌いだ。しかし、狼にとって、カラスは親友だった。イメージとしてはペットに近い。この二者は、とても親密な関係性を築いていた。
 カラスは、現在でも狼の目と言われている。高い所から観察し狼に危機を知らせる。
 二者には、どうやら共通の言語らしきものが存在するらしい。
 
カラスは、狼にとって警報装置であり、いっしょにエサをつつく邪魔者である。カラスは狼の糞を食べる。大人の狼の糞には、消化されずに排泄された骨や毛が含まれている`122

人にとって、嫌われ者である狼とカラス。この二者は親密な関係で結ばれていた。
 北欧の神話には、人とカラスと狼が出てくる。それは、人類の狩猟時代の名残だと作者は言っている。

 狼は、よく遊ぶ。じゃれ合う。時には、噛んだりすることもある。この遊びの中で加減を覚えたり、大人がわざと負けることで勝つ喜びを子供に教えたりもしている。
自制と役割交代を通して、どのような態度ならほかのメンバーに許容されるか、どうやって紛争を解決するか、といったことを学んでいくP156

人が、よく自制をなくしてキレたり、犯罪まがいのことをするのは、子供のころの遊びの欠如もあるのかもしれません。狼は仲間同士では殺し合いをしません。

 動物は感情がないと言われることがありますが、それは違うと作者は言っています。
 狼は、リーダーが死ぬとみんなで遠吠えをし悲しみます。夫婦の場合は、ショックで死ぬ相方もいるようです。深い愛情があるという証拠です。

狼は家族がいなくなると悲しむ。誰かが死んだり姿を消したりすると、困惑して捜索をする。・・・嘆きを込めて遠吠えを繰り返す。でも、やがて振り払い、立ち上がって、それまでの生活の営みを続ける。生活のリズムに従って、・・・自然界のあらゆる生物がするように、今、ここに生きていることを祝う。この能力を失ったのは、人間だけではないだろうか。・・・、もっと、現在を生きればいいのに
P175

 人が狼を忌み嫌う。そこの裏側にあるのは不安なのではないでしょうか。
 狼は人間を襲う、食べる・・・。
 だが、狼は人を食べない。
 人を殺すのは狼よりも、件数でいうと犬の方が多く。
 人間を一番殺しているのは人間であり、人間は肉食動物であり、他の生物を食べて生きているのだという意識の希薄があるのではないかと作者は言っている。

 オオカミの知恵
 家族を愛し、託されたものたちの世話をすること。遊びをけっして忘れないこと。


ページ数 263
読書時間 6時間
読了日 3/15


狼の群れはなぜ真剣に遊ぶのか [ エリ・H・ラディンガー ]
狼の群れはなぜ真剣に遊ぶのか [ エリ・H・ラディンガー ]

4年ぶりに目覚めた天才ピアニストと、彼女を殺すようにと依頼を受けた伝説の暗殺者。ラストまで、依頼人と、その殺害目的がわからないのがポイントでした。
ネタバレ・・・

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 タロット占いを趣味にしている伝説の暗殺者。
 この設定がおもしろい。わざわざ占いをして、その運勢で依頼を受けたり、アクションを起こしたりと、かなり変わっている。
 そのターゲットとなる女は、4年前に交通事故にあい、ずっと植物状態で眠っていて、最近、目覚めた天才ピアニスト。彼女が参加するコンテストの後、殺すという依頼。
 ひょんなことから、彼女と出会ってしまい。助けたことから接点ができてしまい。本来は業務内容にない匿名の依頼者探しまでしてしまうが、これがラストまでわからない。
 彼女の父親が事故で死に、彼女は生命を狙われることになる。
 彼女の心臓移植の為、数億の金が必要になり、ヤクザに頼った。彼女の父親は薬の研究者で純度の高いT5という麻薬を作って借金を返していた。ヤクザたちは、突然、事故死した父親が麻薬のレシピを残していないかと調べていた。
 そのヤクザは、暗殺者の黒姫という危険な女を彼女の監視につけた。高校生の女の子(加害者の娘)が父親を亡くし困っていた彼女の手伝いに来ている。
 そこに、チャイニーズマフィアが加わり、誘拐事件になり、どんどん話しは派手に動いていく。豪華客船で、暗殺者の与一と医者の後藤がライオンと戦うシーンは緊迫感があった。周囲には観客がおり見世物になっていて、全員が何秒で二人が殺されるかにかけている。
 これはどこかで見たことがあるようなシーンだ。映画とかで、似たような光景が出ていたような気がする。ライオンを倒し、彼女を取り返しかけるがヘリで逃げられる。これもありがちなシーンだ。
 そして、チャイニーズマフィアとの直接対決。そこにヤクザが横入りしてきて、三つ巴の戦いになり、さらに、絶体絶命の危機を謎のスナイパーの出現によって助けられる。
 それで人質救出、お父さんも本当は生きていたとわかるが、与一に彼女の暗殺依頼した人間がわからない。
 与一は、だから、依頼を遂行しようとして、彼女が出るコンクール会場の外で狙撃体制に、そこに、依頼人がやってきて、真意がわかるという。
 映画の「レオン」と占い刑事なんたらと、色んなものをMIXしたような。それでいて、良く出来た構成で、読んだ人が高評価をあげていたのが頷ける。先の読めない話しになっていて、満足しました。
 ただ、かなりご都合主義に展開していくので「それはないだろ」と突っ込みをいれたくなります。
 ですが、ラノベで、このクオリティなら満足です。

ページ数:288
読書時間 7時間
読了日 3/11


暗殺日和はタロットで [ 古川 春秋 ]
暗殺日和はタロットで [ 古川 春秋 ]



愛情と狂気をめぐる境界線は薄皮一枚のような気がする。



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「むしろ食べたい」

 一話の最後のページのこのセリフが印象に残った。
「どんだけ、お母さんを愛してるねん」
 その気持ちわかる。

愛情って、なんか狂気と似てる。
深い愛情の裏側は、ホラー映画の感覚なんですよ

 今から語る話しは、友人Yの話しです。
 彼は、大学時代の友人でした。
 夏休みにバイクで日本一周の旅をしていました。
 ゴールデンウィーク前に、恋人に一方的な別れを告げられたのです。
 高校時代に付き合ってた人にプロポーズされたので、大学を辞めて徳島の田舎に戻り農家の跡取りの嫁になるという話しでした。
 思いを断ち切れないYは、祇園祭が終わると、すぐに、一人で旅立ちました。
 失恋旅行です。

 倉敷の手前の林道で夕方、一瞬、目の前に、その別れた恋人が現れた。
 慌ててハンドルを右に切る。彼は地面に投げ出され、バイクはそのまま白いガードレールに突っ込んで大破。ぐしゃん。
 彼は、右足を骨折しました。
 そのまま倉敷の病院に運ばれ、そこから電話がありました。
「京香が、京香が出てきよったんや」
 たぶん、幻覚を見たのでしょう。
 夕方の時刻は、逢魔が時と言いまして、変なものを見る時間帯です。
 京都に戻ってきたYは、松葉杖の姿で、僕のバイト先の塾に現れました。
「お前の彼女って、京香のツレやんか。実家の住所とかわかるやろ。教えろや」と言うのです。
 彼の目の前に現れた京香さんが、とても悲しげな顔で目から血を流していたというのです。
「心配や、オレ、めっちゃ心配や・・・」とひつこく言うのです。
もう、おわかりだと思いますが、京香さんはÝの元カノです。
「何かあったに違いない。嫁ぎ先で小姑にイジメられてるんや。義母は、泉ピン子みたいに怖い人なんや。実家の住所を教えろ」とひつこい。壁際まで追い込まれて、Tシャツの首の所をつかむからピローーーんです。

 とりあえず、当時、付き合っていた女の子に問い合わせると、「年賀状が来てたと思う。でも、教えたくない」。口止めされているんです。
 そりゃ、そうです。別れた男に、追いかけてこられるのは迷惑ですから、当たり前。でも、Yは納得しない。
「何とかせいや。お前ならできるはずや・・・」と無茶を言う。
 僕の弱みをつき、脅し、彼女がバイトでいない時間帯に、忍び込み京香さんの実家の住所をゲットしろ脅します。
 だから、「頼む・・・」と恋人に頭を下げたのですが、断られました。
 教えられない事情があったのです。
 京香さんは、Yに嘘をついていました。
 結婚なんかしてなくて、本当は、病気が発覚して
 それが末期で助からないとわかり、彼から身を引いた。
 彼女が死んだのは、Yが事故にあう二か月ほど前。
 49日より後だから、今ごろ天国だと彼女は言います。
 つまり、京都を離れて、少しして死んだということです。
 49日を過ぎたら魂は、この世を離れるからYの話しはすべて妄想だって決めつけます。
 その事実をYに告げると、彼は号泣し、コンビニのアイスの入っているBOXに頭を入れて自殺しようとしました。もちろん、店員に追い出されましたが、わけがわからないくらい狼狽してた。変になっているとしか思えなかった。電信柱に頭をゴンゴンと叩きしけて、頭蓋骨から変な音がして、このままだったら、頭の骨が割れて脳みそが飛び出して来るんじゃないかって、僕は焦りました。
 どうしても墓に参りたい。最後の別れがしたい。でないと諦めきれないと泣きます。足にしがみつき、人前で僕のズボンを脱がそうとまでしました。「出世したら1億やるから、頼むわ・・・・」と泣きわめきます。
 仕方ないので、僕は、彼女の部屋の合鍵を持っていたので、京香さんからの年賀状を勝手に持ち出しました。

 彼に、それを渡すと、そのまま徳島に向かいました。
 神戸から徳島へのフェリーを乗る待ち時間に、Yは泣ぎながら電話をしてきました。
「俺、京香の墓から骨を盗むつもりや」
 馬鹿な男です。でも、僕に止めることはできなかった。何となくだけど気持ちが理解できたからです。
世界の中心で、愛をさけぶって映画があったでしょ。
 あの作品に、お爺さんに頼まれて、お爺さんの思い人の骨を盗むシーンがあり、たぶん、それの真似だと思います。京香ちゃんの骨をどうしても手元に置きたかったのだと思います。
 彼は、9月の末に京都に戻ってきました。
 僕に「ほな、これを澄香ちゃんに返しておいてぇな」と年賀はがきと、お土産だというゆず団子をくれました。
 Yは、とても嬉しそうに笑っていました。
 僕は、そんなYに問いました。
「で、骨は・・・」
「ゲットした」
「そこにあるのか」
「いや、その場で小さい欠片を食った」

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「お前、正気か?」
「これで京香は、オレの中で生きられるやん。一生、オレと一緒におれるやん」
「だけど・・・」
「俺、今、さいこーーに幸せなんや。さいこーーや」
「食べてのか」
「うん、食べた。味はしなかったよ」

 その話しを、当時付き合っていた彼女に話すと泣き出しました。
 理由を聞いても答えなくて、ひつこく聞くとトイレに入り込んで、そこで3時間くらい引きこもってしまいました。
 わけがわからなくて混乱して、やることもなく夕食を買って来て、テーブルに並べて、味噌汁とか作っていると出てきました。
「君は、のんきだなぁ」と泣き顔で言われました。「京香は幸せだよね・・・」
 僕もそう思います。そこまで誰かを思えるって素晴らしいことです。
 遺骨を食べるって、普通、かなり気色の悪いことだと思います。それを平気でやってのけるのだから、すごい愛情です。食べた場所は墓場ですよ。普通の精神状態の人間は、絶対にそんなことできないし、おかしいですよ。
「君、同じことできる?」と聞かれたけど、できないと思ったから「絶対に無理」と言うと、彼女は「普通はそうだよ。私もしないし、君の実家の住所も知らないよ」
 僕も1年も付き合っていたのに、彼女の実家のことは何も知りませんでした。
 実は、今も知らない。
 食事の後、彼女は泣いた理由を教えてくれました。
 京香さんの両親は離婚していて、母親は中学の時、父親は高校の時に他界しております。
 徳島で80歳くらいのお祖母ちゃんと二人で暮らしていたのですが、成績がそこそこ良かったので、母方の叔父さんにお金を出して貰って大学に通っていたらしいのです。
 当然、病気になった後、彼女は徳島ではなく、関東に住む叔父さんの家の近くの病院に入院したはずです。
 京香さんが死んだという連絡もおじさんからでした。
 お墓もお母さんの方、つまり、関東です。
 Ýが食った骨は、京香さんの父親のもの?
 だから、彼女は泣いていたのです。
 僕には、そこまで誰かを愛することはできないだろうなと思います。
 この漫画を読んでいて、この学生時代の話しを思い出しました。
「むしろ食べたい」
 その瞬間、僕は
 母親を自分の一部にしたいと
 強く願いました。


 これは、Yと同じ感覚です。
 強い愛情です。
 それは、とても怖い。
 過度の感情の傾斜は他者にとって恐怖なのです。
 人間の表皮をはがした、その内側に潜む内面の複雑性
 人の不思議を感じました。
 だが、その繊細な部分にこそ
 粘膜組織のようにジュクジュクした中にこそ
 心の底に直接触れてくるような
 何かそういう力があるのかもしれません。

ページ数192 
読了日 3/10
読書時間 2時間半
母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。 [ 宮川 サトシ ]
母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。 [ 宮川 サトシ ]

1992年から、電子書籍事業に従事していたパイオニアの語る電子書籍の歴史と、これからの可能性について。

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 2年ほど前から、僕も専用のタブレットを購入し電子書籍を読んでいます。
 先日も、ある映画の原作の漫画を本屋さんで「在庫がありません」と言われ、電子書籍でネットで購入しました。ちなみに、1000円。紙の本なら、送料無料で1080円。
本のタイトルは「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った」です。
 あえて値段を出したのは、もっと安いように思える電子書籍の値段なのですが、この程度だということを知って貰いたかったからです。
 これは、紙の本のコピーとして出版社が電子書籍を考えているからだと作者は言います。
 なるほど、安くし過ぎると紙の本の売り上げに影響が出るということなのかな。
 
 本書を読んでいると、初期の電子書籍の様子から、今に至るまでがよくわかります。
 最初は、CD-ROMという形式だったようです。
 今のように読み取り用のタブレットがなかった。
 このデバイスの問題がありました。
 本を流通させる電子書店も少なかった。
 機器に対応したコンテンツ。つまり、商品も少なかった。

 そんな中、荻野さんのパートナーのボブ・スタインは、インターネットと本の融合、その可能性を確信していた。
 それまでは、本は個人が楽しむ嗜好物でしたが、ネット社会になり、本を媒介として読者がリンクするようになったのです。それをネットの初期に気づいたのが、ボブ・スタインでした。
 電子書籍には可能性があるとも言っています。

 だが、先ほども述べましたが、日本の電子書籍は、紙の本と一緒です。
 その現状に荻野さんは不満です。
 彼の出版した本を1つ紹介します。
 「小津安二郎の美学ー映画の中の日本」
 この本は、本文の記述に合わせて、映画の相当シーンをリンクさせています。
P218このように見ていくと、小津映画の典型的なラストシーンはシークエンスを見ていくと、代表作の終わりは意図的にあるパターンを持っていた。となります。
 これは、もう、本と映画の融合です。
 他にも荻野さんは、片岡義男の作品の全作品を出版しました。
 公開された100作品を無制限に読める。記念のTシャツ。1口1万円。さらに、特典として、新作小説のメイキングを描いた読み物を読めるという、今までの本1冊こどに売るというやり方を変えようとしました。

 電子書籍にすれば、写真も動画も音楽もリンクさせられる。可能性は無限に広がる。ネットを介して、読者と読者も結び付けられると主張しています。表現形式が劇的に変化するのです。
 だが、出版社は海賊版を恐れて、本文のコピーをできないようにしたり、規制の方向にベクトルを傾けていると嘆いています。

 最後に、ライザ・デイリーの言葉でしめようと思います。
「出版とは人が求める情報を説得的かつ魅力的に提供することです」
 それ以外にはないということです。



ページ数:301
読書時間 6時間
読了日3/5
 

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マルサスや人口論は学校で習ったので、ざっとは知っていたが、深くは知らなかった。
漫画なのでわかりやすい。
理屈は、かなり難解だ。
たぶん、僕は、ほとんど理解してなかったように思える。
結論を言うと、とても残酷だった。
なるほどと納得はできるが、なかなか受け入れがたい。
人口が、鼠算式に増え、それに対して、食料は足し算で増える。
故に、貧困は生じる。
悪や悲惨によって、その人口増加は抑制されるというのが基本的な骨子だ。
怖いところは、平等の精神による格差ゼロの社会は、平等に全人類を貧しくさせるというところだ。
この考え方は、今でも新しく。やはり、怖い。
漫画だから、リアルに実感を伴って伝わるのだ。
これは良い本だ。
中学生にだって読めるので、みんなに読んでもらいたい。

読了日 3/2

人口論【電子書籍】[ マルサス ]
人口論【電子書籍】[ マルサス ]

 あやかしの出てくる、漫画風のミステリーものと思いきや、なかなかの読み応えあり。読後感はかなり良い。

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 陰陽師の末裔で、あやかしの姿が見えるという高校生が、学校のトイレに住む絶世の美女のあやかしとコンビを組み、あやかし関連の事件の真相に迫るミステリー。
 夢枕獏の陰陽師のようなアクションシーンはなく。ただの謎解きミステリーです。
 5つの短編からなっており、1つ1つが丁寧に作られていて、ライトノベルという範疇でとらえると少し違う感じがします。人がよく描かれており、じわっと心に沁み込んでくるような少し良い話し。

 第一話は、プランターの花に、鬼のように水をやったり、花を切り裂く生徒の話し。その花は、切り刻まれたのに復活する。どうして、そんなことをするのか?。何故、花は復活するのか?。最後に、謎がわかった時、ある人物の印象が180度変化する。
 
 2つ目の話しは、学校の裏庭にある古木の前にたたずんでいる若い女性のあやかしの話し。
 そこの元生徒で、定年が近い老古典教師をじっと見つめている。
 逢魔が時に一瞬、先生に姿が見えた。知っている人だという。生徒や教師を調べる。そして、教育実習の時に、思いを寄せていた古典の女の先生だと判明。二人は、いつの日か、結ばれようと約束をしていたが、彼が教師として赴任する前に、彼女は体調を崩し教師を辞めていた。
 正体が判明した瞬間、姿が明確になり、言葉を発する。
「あらざらむ この世の他の思い出に 今ひとたびの逢うこともがな」
 百人一首である。
 これは古典教師の共通言語。
 老教師は涙する。
 このあやかしは、隠世鳥という名のあやかしである。
 生者の最後の思いを届けるメッセンジャーらしい
 この句の意味は
「私の生命は、もう長くありません。だから、あの世への思い出に、せめて、もう一度、あなたに逢いたいのです・・・」
 このラストが良かった。まるで、除夜の鐘の音色のような余韻が残像として残る。そういう短編だった。
 3話目は、老陰陽師(祖父)とあやかしの子供時代の交流と別れた理由。この真相は胸が熱くなる。
 4話目は、子供のころからずっと、ある女の子を見守り続けていた祇園さんという守護あやかしと少女の別れ。これもいい。
 5話目は、トイレのあやかしの正体。これも歴史の史実をからめて、よくできているが、少し強引すぎる。

 優しくて、心温まる。あやかしと人間の心の交流を描いたもので、設定はウケを狙って変だが、話しはかなりオーソドックスな良い話しだった。
 続きが出たら読みたいと思いました。

ページ数:288
読書時間 5時間
読了日 2/26
 

京都九条のあやかし探偵〜花子さんと見習い陰陽師の日常事件簿〜(一二三文庫)【電子書籍】[ 志木謙介 ]
京都九条のあやかし探偵〜花子さんと見習い陰陽師の日常事件簿〜(一二三文庫)【電子書籍】[ 志木謙介 ]

 
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  英語アレルギーの人は、文章の中に長い英文が出てくると飛ばして読むという。
 数字アレルギーの人は、それを記号として意味づけをしないとも言われている。
 この本は、「数に強くなる本」である。数学の本だ。
 6つの授業で構成されている。基本編4つは、基礎知識。実践編2つは、若手のビジネスパーソン向けに書かれたものだ。つまり、対象は、数学にある程度興味と関心があり、実務として数字を扱っているビジネスパーソン若手ということになる。
 
 シロナガスクジラは全長30mらしい。
 この数字を見てピンとくる人は数学好きだ。
 しかし、たいていの人は?顔になる。
 ほとんどの人は、右から左に数字が流れていることになる。
 ビルの1階の高さは3m。つまり、ビル10階がシロナガスクジラだ。
 これなら具体的なイメージがわくだろう。
 かなり大きい。
  東京ドーム何個分という例えも、この具体化の作業の1つです。
 数学好きの見えている世界と、そうでない世界は、こんな感じなのかもしれない。
 
 メートルが日本に入ってきたのは明治の中頃。
 それ以前は、尺などの旧単位が主だった。
 学生に、メートルを普及させようと考えた明治政府は、学校に二宮金次郎の銅像を設置した。
 あの銅像の高さはジャスト1メートル。
 つまり、メートルを体感させたかったのだ。

 小川洋子さんの小説に「博士の愛した数式」という本がある(未読)。
 博士と女性の出会いのシーン。誕生日だかの数字が友愛数だった。
 2つの数が約数の和の過不足を相殺する数
 具体例をあげると、220と284
 220の約数は、1、2,4,5、10,11,20、22,44,55,110足すと284
 284の約数は、1,2,4、71,142足すと220
 実に、おもしろい。この本は、読まにゃならん。
 
「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」という音階を発明したのはピタゴラスだ。
 鍛冶屋で、2つのハンマーが打撃音を上げているのを見て、聞いて、実験し
2:1,3:1,4:3の時にいい音になるのを見つけて、実験を繰り返し、これを発明したらしい。
つまり、音階はもともと数学がベースとなっていたのだ。

 黄金比というものがある。美しく見えるサイズの形だ。
ピラミッド、ミロのビーナス、モナリザ、パルテノン神殿などである
 黄金比1:1.618
 これはフィボナッチ数列と関係していて
 アップルのリンゴのマーク、Twitterの鳥のマークの半径は、この数列の数字である。
 数字って、色んな所に関係している。

 このような数学の雑学知識が満載であり、実践編では、割り算の2つの考え方。フェルミ推定と、それをビジネスシーンで、どのように展開していくかまで触れており、とても興味深い内容になっていた。
 数字を、ただの記号としか見られなかった人の「数」に対する認識が、この本を読めば変化するはずです。
 ある程度の数学的な知識を必要とするが、僕には、とてもおもしろい本でした。
 少し時間が経過してから、また、読んでみたい本です。
 数学好きの人は、せび、試してみてください。新しい再発見があるかもしれません。


 
ページ数:243
読書時間 5時間
読了日 2/15

【店内全品5倍】東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本 人生が変わる授業/永野裕之【3000円以上送料無料】
【店内全品5倍】東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本 人生が変わる授業/永野裕之【3000円以上送料無料】

 
 君と私たちは同じ狩り場で出会ってしまった肉食獣みたいなものだよ。
 探偵が悪人。怒濤の後半。これでもか、これでもかというアクション。凄い!。


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 長浦さんと言えば、『リボルバー・リリー』が第19回大藪春彦賞を受賞しました。あれは楽しい小説でした。その長浦さんの新刊が、この作品です。
 タイトルは「マーダーズ」。
 マーダー【murder】とは、殺人、殺人罪、殺人事件のことです。
 つまり、殺人者が複数いるという意味です。
 もし、金田一耕助が連続殺人犯だったら・・・、犬神家の一族は成立するのだろうか?。
 無理ですよね。誰も、そんな奴の推理は参考になんかしません。
 この物語の探偵役は、二人います。
 この二人は、いずれも殺人者です。だから、タイトルは「マーダーズ」。殺人のmurderの複数形。
 一人は女刑事の則本敦子。彼女は、高校生の時に、兄と二人で自分に性的虐待を加えた義父を殺しました。犯人は兄ということで決着済み。だが、そのせいで、夫と離婚。娘の親権も奪われる。優秀な刑事です。
 もう一人、商社マンの清春。彼は、好きだった同級生が子供のころ、悪い奴らに殺されました。その復讐をし連続殺人をしているが、まだ、露見していない。
 この二人を脅し、20年前の自分の母親の殺害と姉の失踪事件の再捜査を依頼したのが、柚木というハーフの女性。

 P345に、清春が選ばれた理由が示されている。
「そう、犯罪者としての臭覚もだが、人を殺める能力も買われていた」
 犯罪者だからこそ、備わっている臭覚と、それから危機管理能力。今までの探偵たちとは少し違う角度で事件にアプローチしていく。これは新しい探偵の形ですが、この作品の中では成功しています。後半、連続して襲いかかってくる敵に対して、清春はこの才能を発揮し撃退していきます。ここが、この作品の魅力です。
 超人のように強く、悪人のように用心深く、ずる賢い。
 裏切り、騙し、駆け引き。女刑事の上司まで出てきて、こいつも酷い男。二人を脅し従わせようとする。
「君と私たちは同じ狩り場で出会ってしまった肉食獣みたいなものだよ」
 この作中の台詞が痺れる。悪人が、悪人たちを味方にして、悪人たちと戦いまくる。
 前半の不可思議な謎めいた展開が、後半になると怒濤ののアクション。また、アクション。
 拉致された柚木を助けに行く清春がいい。かっこいい。
 ミステリーなので、詳しくは語れませんが、遭遇する人間はすべて敵というイメージです。
 ほぼ、全員、悪人。
 なのに、読後感はすっきりです。光速のジェットコースター級の上下左右の揺さぶり、アクションはド迫力だし、まったく展開が読めなかった。
 てっきり、ラストはハッピーエンドで、二人は結ばれると思いきや・・・。
 とにかく、おもしろい。
 世界は、クズと悪人でできている。
 でも、そんなクズでも真実を知りたいんだよという、その情熱。 生き残りゲームでした。


マーダーズ [ 長浦 京 ]
マーダーズ [ 長浦 京 ]


 大学生のころ、僕は塾で講師のバイトをしていた。
 二階に控室があり、文系は右側。理系は左側に席が用意されていた。
 僕は、国語を教えていたので右側に。
 一番、右の席にいつも、一人のちっこい女性がいた。
 その人は、京都大学の学生で英語の担当だった。
 いつも独りぼっちで、孤独と結婚でもしているかのようだった。
 誰かが話しかけても「ちわっ」と挨拶を返すだけ、顔も上げない。
 いつも、その端っこの席で、本と睨めっこしていた。
 右斜め45度の角度からの彼女の横顔は綺麗で
 気がつくと、そこに視線がいってた
 何を読んでいるのか気になっていたけど聞ける雰囲気ではない
 彼女の周囲には、見えない壁ができていた。
 文系の連中は、私立大の人間ばかりでつるみ
 態度のでかい京大生が嫌いだった。
 中でも、彼女は、特にお高くとまっていたので、皆に避けられていた。
 理系の連中は、大半が京都大学の学生で、こっちもこっちで群れていた
 彼女は、どうしてか、自分の大学の人たちとは近づきもしないんだ。
 いつも同じ場所で本を読む、授業をして気がつくと消えていた。
 その繰り返しだった。
 そういう人だった。
 1月ごろだと思う。インフルエンザで、社員の国語の講師の人が土日休んだ。
 金曜の夜に、いきなり、「悪いけど、土日の代理頼むわ」と塾長に押し付けられた。
 土曜、行ってみると控室に彼女がいて、すごく嬉しかった。
 クラスは2つ。講師は3人で、授業とテストをやるという形式。 
 つまり、講師が一人待機になる。
 僕が待機の時間、目の前に、彼女の本が。
 何を読んでいるのか、すごく気になった。
 ブックカバーがしてあったが、開けてやった。
 彼女は授業中だ。かまいはしない。


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 これだった。
 村上春樹のでなく、昔の白水社から出ている、こっちだ。
 それもボロボロ。
 例えるなら、公園に忘れてしまい。そのうち、雨が降り、犬が地面に落とし地面を引きずった。
 そういうボロボロ。
 30回くらい読んでるのではないかというボロボロさ。
 線が引いてあった。
 今回、再読し、その文章を見つけました。
 その部分を引用します。

「悲しい別れでも、嫌な別れでも、そんなことはどうだっていいんだ。どこかを去っていくときには、いま自分は去っていくんだってことを、はっきり意識して去りたいんだな。そうでないと、なおさら気分がよくないものだぜ」P10

 ホールディンが退校するのに、みんなが、そのことを無視する。そんな時に出たセリフです。
必死に強がっている、そこが、ちょっと切ない。
 ちなみに、僕は、このセリフが好きです。
 P177「金の野郎め!。いつだって、しまいには、必ずひとを憂鬱にさせやがる」
 こっちは、ホールディンらしさが出ています。

 今回、映画化すると聞き、あえて白水社の方を選び再読しました。
 正直に言います。「これはすごい・・・」と思いました。
 以下、本の感想・・・。

 高校生のホールディンは成績不良で退校となることになった。
 世話になったスペンサー先生に、お別れの挨拶に行きます。
 彼が、欲していたのは共感。何も言わず抱きしめて欲しかった。
 だが、先生は、これが最後だ。何かしてやらねばと説教を始める。
 そして、最後に「幸運を祈るよ」なんてインチキ臭い言葉を吐く。
 この瞬間、僕も彼になったような気分になった。
 何もわかっちゃいない。馬鹿野郎。彼の悪態が、僕の胸にも降臨してきました。
 本当は、そんなことを1ミリも思っていないくせに、大人は平気で嘘をつく。
 だから、彼は怒りという弾丸を機関銃に装てんし、そこら中に撃ちまくる。
 寮に戻ると、同室のイケ面から宿題を頼まれる。デートなんだそうだ。
 相手が悪い。ホールディンの家の隣の女の子。好きだった子。
 それでも、宿題をやってやる。でも、帰ってきたルームメイトは、その女の子をコーチから借りた車で・・・。
 頭にくる。せっかくしてやった宿題にまで文句をつけられる。
 怒り狂い挑みかかるが、逆にやられてしまい鼻血。
 この最低野郎、低能に大事な女の子を奪われ、屈辱まで味わい
 彼は学校を飛び出す

 学校を飛び出す前のシーンと、その後は実は断絶していると思う。
 怒りや矛盾や不安を、壊れた充電器のようなホールディンはため込みます
 それが、放電という形で悪態となり放出しているのです
 それを「大人はわかってくれない」。わかろうともしない。
 まだ、明確な行動倫理とか論理的な思考を持たない高校生のホールディンは、周囲の人間に対して毒を吐きまくるのだが、それは漠然とした不安や苛立ちとか、大人の無理解や大人社会のインチキさに対する反抗なのだと思う。
 その根拠は、妹のフィービーや、博物館でミイラを探していた子供たちや、教会の関係者らしき教師たちには、その毒舌を封じているからです。
 彼が言葉を荒げる時には、そこにインチキや不合理があるからだ。
 これは純粋な子供の大人に対する戦争だと思った。

 だが、この戦争は、しっぺ返しの連続だ。
 孤独な彼は、人恋しさから売春婦を買う。1回5ドルだ。
 やってきたのは、若い女。彼は、ただ、話しがしたいだけだった。Hなことはどうでもよい。
 だから、金だけ渡して何もせず帰らせた。おしゃべりだけ。
 それを大人たちが、どう受け取るかはわからない
 売春婦のバックにいる男は、これはカモだと踏んだ。5ドルではなく10ドルだと言い。部屋まで押し入り、暴力的に金をむしり取る。
 そして、信頼していた前の学校の先生。
 家に泊めて貰うことになるが、夜中に触られる。
 信頼していた人間からの裏切り。
 いつも、彼を傷つけるのは大人や、無神経な奴らだった。
 彼は、いつも誰かを信じたいと思う。繋がりたいと思うが、その気持ちは伝わらない。
 好かれる為の努力もせず、ただ、好かれたいと欲するばかり
 それでは、いつまでたっても堂々巡りにしかならない
 その毒舌は誤解され、嫌われて狂人のように思われる。
 世界中の人間が、まるで敵になったみたいに思えてくる。
 そんな彼のことを、全面的に許容する愛すべき登場人物がいた。
 彼女によって、彼は光明を見出すのだ。それが幼い妹のフィービーだった。
 彼が西部かどこかの田舎に逃げようとしているのを、大きな旅行鞄を抱えて「私も行く」と必死に阻止しようとするかわいい妹。
 誰かに、全面的に許容されたいという思いが、ホールディンにはあったと思う。
 だから、NYの夜の街をさまよって、人とぶつかりボロボロに傷ついた。でも、最後に、妹に体当たりに近い許容を見せられ。世界中の人間が敵になっても自分だけは味方でいるよという意思を示され、彼は踏みとどまったのだと思う。
 もちろん、この小説のモチーフは、大人たちのインチキに対する孤軍奮闘である。大人たちの欺瞞に対しての毒舌戦争だ。そして、もう1つ、人間には理解者が必要であるという裏モチーフも存在していると思うんだ。
 いい作品だった。たまには、名作と呼ばれるものを再読するのも悪くないようです。
 僕の中にも、ホールディンはいるんだと再認識した。

 もう、僕の中の彼女は、10年前にこぼした醤油のシミのように
 どうでもいい存在なのだけど
 孤独に、一人で控室の片隅で
 この大人の中に存在するインチキと、必死になって戦っていたホールディンのあの毒舌
 孤独な闘いの物語を、ボロボロになるまで読んでいた
 そのかつて僕が好きだった、とてもちっちゃな女性を、あの横顔を、この本を読むと思い出さずにはいられないのです。
 これが、僕のサリンジャーの思い出。 
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ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス) [ ジェローム・デーヴィド・サリンジャー ]
ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス) [ ジェローム・デーヴィド・サリンジャー ]

54文字という短い空間に小さな世界が詰め込まれてある。

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 

 短編集です。
 作品の数は90作品。
 多いが、1時間もあれば読めます。
 タイトルの通り1つの作品が54文字なのです。
 だから、意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 ゾク編 54字の物語 怪なのです。
 54文字という短い空間に小さな世界が詰め込まれてある。
 オチまである。

 雰囲気を味わうため、実際の作品をいくつか紹介します。

 
ねぇ、今誰か声が聞こえなかった?怖い!この部屋何かいるよ!」うん、聞こえているよ。ところであたなは誰なの?

「うらめしや・・・」「呪ってやる・・・」「見つけたぞ・・・」「お前の首を・・・」ちょっと一度に話かけないで!また殺すわよ!

今日は親友とハイキング。親友はどんど奥へと進んでいく。「帰り道はわかるの?」「大丈夫、帰らないからね」

瓶に入れておいた劇薬を、助手がパンに塗って食べてしまったらしい。大きな字でちゃんと「苺」と書いておいたのに。

刃物で切られて、バラバラにされて、溶かされて、押しつぶされて、また切られて、ここまで来ました。紙と申します。

ネット注文したマッサージチェアが届いたが、すぐに、返品することにした。腰かけていたあの男も付属品だなんて。


 ホラーというよりも、ブラックですね。
 ちゃんとオチがあったでしょう。

 作品があり。次に解説となっています。
 この解説が無用の長物なのであります。はっきり言うといりません。
 おもしろいのですが、途中であきます。
 90作品も、こんなのが続くとあきるのです。
 つまり、企画としてはGOOD。
 しかし、これは一発屋の昭和の歌手みたいなもの。
 なのに、これは続編なのか・・・。
読書時間 1時間弱
読了 1/22

54字の物語 怪 [ 氏田 雄介 ]
54字の物語 怪 [ 氏田 雄介 ]





元人気予備校講師のわかりやすい説明の為の7つの極意。IKPOLET法。これは、伝える時のフレームワーク。普通に、使えると思う。

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。


 ある業界の人同士では通じる会話も、別の世代、業界の人と話すと外国人と話しているようなことが多々あり、僕も、よく言われます。
「お前の話しは難しい」
「説明が下手すぎる」
 この本は、そういう人にとってはテキストになるかもしれません。
 予備校の元人気講師が作った型IKPOLET法。
 これは、伝える時のフレームワークなのだそうです。
 ここに示された7つの方法は、すべてとは言えないが、いくつかは役に立つと思った。読んでよかった。サラリーマンよりも、教師の方が読むリターンが大きいのではないかと思えます。

 
IKPOLET法とは・・・
 1、興味をひく話しをする
 2、聞き手の持っている知識や認識にアクセスする
 ようするに、相手のレベルに合わせる。難しい専門用語を連発しないことです。
 3、目的を示す
 これを勉強すれば、XXの知識が身につきますというような動機付けですね。
 4、大枠を見せる
 説明する内容のマップをあらかじめ提示する。
 5、つなげる
 6、具体的に、証拠を出す、事例を出す
 7、転移させる

だいたい、こういう話しでした。

 ようするに、相手のレベルに合わせて、わかりやすい言葉を使い。興味を引く話しをして、話しの着地点を最初に大ざっばに伝えて、大枠も見せる。説明は抽象的にならず具体的にということですね。

 前に、プレゼンの極意の本を読みましたが、それもだいたい内容は同じでした。
 予備校の先生の書いた本なので、先生目線の聞き手は生徒想定でした。

 いくつか印象に残った部分を紹介します。
相手に理解できない説明は意味がない

わかるとは、今までの知識と新しい知識をつなげることである
だから、相手の知識レベルの把握が必要で、それに合わせた説明が必要。
相手が、興味を持ち、理解し、説明した知識がつながってこそ、それに意味があるとのことでした。

 後、記憶についての記述もおもしろかった。
 講義や読書の記憶定着率は、あまり高くないのだそうです。
 アメリカでやっているアクティブラーニング
 議論形式の授業とか、自分の意見を言ったり、相手の意見を聞く
 主体的に取り組む
 その場合の知識定着率は高いそうです。
 これは余談の豆知識として書いてました。図入りで。
 ここが、僕は一番おもしろかつた。
 前に読んだアウトプットの本でも、この主体性は重要視していました。
 僕のように、読んだ本を主体的にアウトプットするのは
 ただ読むよりも理解度が増し記憶定着率も高くなるのかもしれません
 
 おもしろい本でした。読みやすいのがいいです。
 図が多く説明がわかりやすい。中学生でもわかる内容です。

読書時間 2時間半
ページ数 256
読了日 1/21
東大院生が開発!頭のいい説明は型で決まる/犬塚壮志【1000円以上送料無料】
東大院生が開発!頭のいい説明は型で決まる/犬塚壮志【1000円以上送料無料】

シリーズ10作目。今回は、短編だけでなく、シュールな中編もあり、ミステリーあり、バトルあり、派手などんでん返しありで、とても楽しめました。

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 キノの旅は、若い男装の女性キノが、しゃべるモトラドのエルメス(単車)と、色んな国に旅をするガリバー旅行記のラノベ版風で、2000年あたりから続いているシリーズです。
 僕が読んだのは10巻ですが、まだ、半分も到達していません。コアなファンが多いシリーズです。
 不思議な国に、3日間だけ滞在するというパターンで、オチが強烈です。
 今回も短編を含めて10話ほどありました。
 2つの話しを軽く触れたいと思います。
 
 以下、ネタばれです・・・

 冒頭の「ペットの国」
 この国は、国民がみんな、ペットを飼っています。
 義務であり、権利です。
 キノは、旅人に「無料で食べ物が貰える国」と聞いてきた。
 しかし、そんなことはなかった。
 出国の時、来訪記念にペットをあげると国の人に言われます
 キノは、鶏を貰いました。その夜、それを頂きました。
「なるほど、評判通りの国である・・・」という話しです。
 ある人には、それはペットでも、ある人たちには食べ物だというブラックな作品です。

 最後の「歌姫のいる国」
 これは160ページほどの中編でした。
 この国には、国民に人気の美声で美しい少女の歌姫がいました。
 治安の悪い国です。
 人質事件が発生。身代金を要求。キノがお金の受け渡しを依頼されます。
 だが、変な要求を受ける。
 犯人もろとも、人質になっている少女も殺せというのです。
 この話しは、歌姫のファンであり、犯人一味の仲間となる少年の視線で語られます。
 3人の仲間は、キノに殺され
 彼は、少女を連れて逃げまくる
 そのやりとりが面白い
 ラストで、どうして少女が生命を狙われたのかが判明する
 歌姫は二人いた
 一人はビジュアル担当で、もう一人は、歌を歌っていた少女
 ビジュアル担当は死に
 誘拐されたのは歌担当
 もう、用済みということ
 芸能界の裏側を見せられているようで嫌な感じです
 でも、ラストで二人を殺したことにして
 キノは彼らを脱出させます
 やはり、キノはいい役だったのかと安心し物語は終了となります。

ページ数 268
読書時間 5時間
読了日 1/18


キノの旅X the Beautiful World【電子書籍】[ 時雨沢 恵一 ]
キノの旅X the Beautiful World【電子書籍】[ 時雨沢 恵一 ]

訳者、村上春樹。読むしかあるまい・・・。




※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。





主人公は、ロバです。
絵が、かわいい。
表情が豊か、子供受けまちがいない。

そのロバが、もしも、家の中に入ることができたらという話しです

もし、家の中でロバを飼ったら、どうなるのでしょう?
擬人化ですね
ロバは、こんなことをします
椅子に、ゆったり余裕ですわったり
台所でさかだちをしておどけたり
ブタやイヌのともだちが遊びにきたり
靴下もはくんだよ
赤と白のボーダー
お気に入りの映画もあるよ
ピアノをひいたりします。
朝ごはんは、藁です
居間で側転もする
寝転んで電話もするんだよ
盗み聞きだってしてしまう
すごくかわいいロバなんだ

村上春樹氏のあとがきによると、「ロバの顔や仕草がなにしろとてもすてきです。見ているだけで飽きない。さて、ロバはほんとうにいるのでしょうか? ほんとうはいないのでしょうか? ロバは見える人にしか見えないのでしょうか? ひょっとして、あなたの隣にロバがいたりしませんか?」と書かれていて、想像して楽しむことをすすめています。

おじさんと、いつも一緒なんだけど
たぶん、このロバは透明だと思います
霊ですよ
だから、自由にできるのです


これは絵本である。
作者は、トビー・リドル 

1965年、オーストラリア、シドニー生まれ。
1988年より、絵本作家としても活躍。
2011年、オーストラリア児童図書賞絵本部門オナー受賞という人です。
ページ数32
読書時間 10分
読了 1/12

わたしのおじさんのロバ [ トビー・リドル ]
わたしのおじさんのロバ [ トビー・リドル ]
#わたしのおじさんのロバ
#NetGalleyJP
 


勝海舟がすごすぎる。たぶん、作者の沖方丁さんは、勝の大ファンだと思う。スリリングな展開で、江戸城無血開城の裏側が描かれていました

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。
 この本のタイトルは「麒麟児」と言います。
 この麒麟児は、二人の人物を指し示しています。
 江戸無血開城について会談した官軍と幕軍の代表
 勝海舟と西郷隆盛のことです。
 この当時は、勝阿波守と西郷吉之助だったと思うのですが、僕は後の定着した呼称である海舟と隆盛と呼びたいと思います。
 雑誌の「野性時代」で連載していたのは知っていました。
 知り合いが、あの雑誌のファンで「勝が、とにかく、かっけー」と連呼していたのを覚えています。
 その理由が、この本を読んでわかりました。
 この物語の勝海舟は、もはや、超人ですよ。頭脳明晰、行動力がすごく。
 人格まで尊敬に値するような人なのです。
 実際には、こんな完璧な人間はいないと思います。
 沖方さんは、かなり話しを盛っている可能性あり
 この勝海舟のカッコよさが、この物語の軸になっており
 とにかく、読ませます。どんどん、引き込まれていく。話しがおもしろい。弱者の駆け引きとか、そういうのがハマりました。
 お前は諸葛孔明かと、つっこみを入れたくなるほど、すごい。
 そして、相方の西郷さんもすごい。
 この二人の時代の寵児が、とてつもなく魅力的に描かれています。
 もう、それだけで読む価値ありの作品でした。


P31「西郷のことを、小さく打てば小さく響き、大きく打てば大きく響く」と評したのは、かつて勝が手足のように使い、頼った末、京の一角で暗殺された坂本龍馬という土佐出身の浪人である。まったく、その通りだと勝も考えた。天下について問えば天下のことが、正義について問えば、正義のことが、西郷の内に入り大きく響きだす。


P43
「勝阿波守は、味方のなかには敵がたくさんいるくせに、敵の中には敵らしい敵がいない」という状況を作り出していた。それが勝をここまで生き延びさせ、そして、また、今の大役を背負わせることになった要因であろう


このように勝や西郷を深く掘り下げています。



 いくつか新たな発見がありました。山岡鉄舟が、西郷の元に勝の手紙を届ける、あの見せ場。
 西郷どんや、他のドラマ、映画、小説などでも、必ずアクションシーンとなる場面なのですが
 これは史実ではありません。
 幕府側にとらえられていた薩摩の男が、勝の気持ちに賛同し道案内を買って出て
 簡単に西郷に会えてしまいます
 あえて、史実通りに描いたのは、たぶん、西郷の度量の深さを際立たせる演出でしょう
 作者は、いたるところで、これをやっております
 とくに、前半から中盤にかけては見せ場の連続
 二人の会談ですが、二人で江戸城の中でやったと思っていたのですが
 じゃなかった。江戸の端っこでやってたのです。そりゃ当然、まだ、戦争中なのですから、江戸城に入れるわけありませんよね。
 背景にある二人の駆け引き、イギリスのパークス大使の存在、榎本武揚の幕府の軍艦
 勝は、手持ちのカードを駆使し、密偵に情報収集させ、まるで、現代の外交場面のように戦います
 すごいハラハラドキドキの展開
 この物語の2つ目の魅力は、ここ
 二人の麒麟児の背景にあった事情です
 江戸無血開城の後は、少しトーンダウンするのは、勝海舟が歴史のキーマンではなくなったからですが
 幕府側の視点から見た色んな人の思惑、行動、大義はなかなかに面白かった。
 300ページが、あっと言う間に過ぎていきました
 おもしろかったです

ページ数 308
読書時間 6時間
読了日 1/11
麒麟児 [ 冲方 丁 ]
麒麟児 [ 冲方 丁 ]

小4の理屈っぽい男の子が、巨乳の歯科医のお姉さんに恋をする。ペンギンも異生物も出てきますよ。ちょっと不思議なファンタジー小説でした。

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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。



 これ本当に森見さん?

 と、100ページくらい読んでいて思いました。
 巨乳の歯科医に、小4の理屈っぽい男子が恋する物語
 舞台は京都ではない
 どこかの山村の田舎の都市
 ペンギンが出現します。山にペンギンですよ。そして、異生物も出現します。シロナガスクジラの子供みたいな奴です。手足があります。ジャバウォックと言います。
 そのペンギンですが、巨乳のお姉さんがコーラの缶から作ってしまいます。
 電車に乗りると消えます。
 大量に出没します。
 そうです。お姉さんが、すべての根源。
 ジャバウォックの方もお姉さんが作り出します。
 でも、お姉さんは、どうして、そんなことができるのかわかんない。
 主人公の男子と、イジメられ子の親友。それから大学教授の娘の同級生の女の子の三人が、その謎を解き明かそうと、ペンギンの出てきた森に入っていく。
 そこは草原です。そこに変な美しい海があり、それは大きくなったり小さくなったり。その伸縮と、おっぱい姉さんの体調は連動しております。
 森を探索しているのは、彼らだけではない。
 鈴木という、いじめっ子率いる軍団も探検していて、彼らと遭遇する。
 鈴木たちは、ジャバウォックを捕獲し、大人たちが騒ぎだす。未知の生物。おかしな森。そして、その奥にある海。その海は膨張していき、ついにはショッピングモールまで飲み込んでいく。そのまま拡大しすべてを飲み込むのか。海は、ブラックホールなのか。それともビックバンか。
 お姉さんが大量のペンギンを発生させて、その危機を救う。そして、お姉さんは任務を果たして町から消えていきます。
 主人公の青山君は、学究肌で理屈屋です。将来は、物理学者か哲学者。
 コーラの缶が、ペンギンに変わる様は、生物の進化の比喩なのか。(これは少し強引?)
森の中の海は、拡大し色んな物を飲み込んでいく。
 ペンギンは、その増殖を打ち消す役割。
 それを人間ではない。おっぱい姉さんが作り出す。お姉さんは自分が何をしているのか、よくわかっていない。でも、結果として、増殖していく海から人を救う。
 これは、何かすごく深淵なモチーフなのかと思いつつ、森見さんに限って、それはないだろうと思うのです。
 少年に、父親がこんなセリフを吐いています。ラスト近く。
「世界の果てを見るのは悲しいことでもある・・・」
 哲学者か、物理学者にでもなりそうな青山君は、
 この世界の果て
 先の世界を追求し
 どこかでまた、あの巨乳のお姉さんと出会えることがあるのだろうか?。
 そんなことを考えてしまいました。

ページ数 387
読書時間 6時間
読了日 2019 1/2

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫) [ 森見 登美彦 ]
ペンギン・ハイウェイ (角川文庫) [ 森見 登美彦 ]

古語から、いにしえの世界を垣間見ることができる大人の為の古文単語の図鑑です。


 まず、簡単な古語の説明があり。
 それから漫画で簡単に説明。
 その後、詳しい解説があり、最後に、どのような場面で使われるのかの練習問題があります。
 イラストが多く。若い女子向けです。
 とてもわかりやすい内容になっていて、とっつきやすいです。

 具体的に見てみます。
「ときめく」という古語があります。
 現代語では、胸がときめく・・・。など、そのままの意味に使われることが多いのですが、古語では、少し意味が違ってきます。
 時めく、つまり、時流にのる。
 寵愛をうけている。平安時代の世界は、女性は受け身です。
 今を「ときめく」人とは・・・
 有力者に寵愛を受けているという意味に使われたことが多いようです。

 もう1つだけ紹介します「たまづさ」。
 意味は、手紙。手紙を届ける使者。
 平安時代、女性はみんな引きこもりです。
 男性の方から愛の告白をしますが、ネットとかないし、メールもSNSの交流もできない
 告白の方法は手紙です。
 昔、手紙を届ける使者は、その印として「梓」の杖を持っていました。
 ラブレターを渡すとき、何かの木にくくりつけて渡すのがオシャレでした。
 古代の手紙は「梓」の木に括り付けて届けたので、昔の人は「梓」=手紙のイメージがあり。
 「玉梓」から「たまずさ」・・・へ。

 このように古語の世界から、平安の世界を垣間見えるような内容になっていて、すごく僕にはご機嫌の本でした。
 ただ、ページ数が少ないので、内容も薄い。そこが不満。

#古文単語キャラ図鑑

この小説の魅力は、組織の中で常に自分自身であり続ける。決して、忖度をしない不器用な竜崎署長の人間性にあると思います。
 このシリーズも6作品目となり、そろそろ中だるみするかと思いきや、今回も竜崎署長はやってくれました。
 警察小説を書かせたら、今、今野敏の右に出る人はいないでしょう。人気のシリーズです。
 今回は、ストーカー殺人事件。
 ストーカー対策部署を創設するということで、上司と揉めている時に、事件が発生。
 竜崎署長は、どうせなら、ベストのメンバーで部署を立ち上げたいと思っていたが、上の人はストーカー対策室の焼き直しでもいい。とにかく、早くと・・・。
 今回の忖度上司は、この男弓削です。ブレない原理原則主義の竜崎署長と対立します。そして、降格の危機?。この嫉妬男からの邪魔を受けながらも、ストーカー殺人事件が発生。
 この事件、ストーカー被害を訴えていた女性が、恋人と二人でストーカーと話し合い中、恋人がストーカーに殺害される。犯人は、銃を所持し、女性を連れて逃走。さらに、立てこもりという最悪な展開なのですが、竜崎署長と部下たちの賢明なる捜査で、事態は二転三転というおもしろさ。
 このシリーズの魅力は、この竜崎署長にあります。
 彼の何ごとにも妥協せず、上にも忖度しない、原理原則主義。どんな時でも部下を信頼し、口をなるべく出さず、邪魔もせず、ただ責任のみをとる。そういう男らしい姿勢が魅力的です。
 そんな竜崎も家に帰れば、家庭に無関心な父親に、溺愛している娘には恋人がいて、彼がストーカー化していると聞くと、「警察に被害届を出しなさい」と、いつものような原理原則主義。石頭。事件解決以外は、人間として、かなり問題があるように思います。だからと言って、子供に対する愛がないわけではない。それは部下に対する態度も同じ。いつも気をつかい。最善を考えている。
 だから、部下も無理をしてまで働く。事件を解決する。署長が移動の噂さが出るとみんなで心配する。
 刑事物語のミステリーという要素に、人間としての人の在り方、警察組織の醜さ。色んなものが、ごちゃまぜになった、そういう作品だからこそ人気シリーズとなったのだと思います。
 事件については、ネタバレになると困るので詳しくは語れませんが、どんでん返しがあります。

ページ数 428
読書時間 6時間
読了日 12/26
去就 隠蔽捜査6 (新潮文庫) [ 今野 敏 ]

 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に託した思いが、きちんと伝わってきました。これはオリジナルの作品ではなく、宮沢賢治の解説書に近いと思う。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。


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 ジョバンニではなくカムパネルラの視線で物語を語り直した作品。
 小説というよりか、宮沢賢治と作品「銀河鉄道の夜」の解説書のように思えた。
 とにかく、宮沢賢治の詩がたくさん出てくる。
 ストーリーにそって、解説し詩が出てくるパターン。
 どうも、この銀河鉄道の夜のベースには、1923年に、賢治が行った樺太旅行がベースにあるみたいだ。
 白鳥の・・・とかは、その旅行中で体験した光景がヒントになっていた。
 この話しは、早くに亡くなった妹トシに対するレクイエムだと一般には言われているが、作者の長野さんは、この話しで違う視点を示している。それが、この本の核の部分だと思う。
 ストーリーが進行してくると、だんだん、秘められた賢治の恋の真実が浮かび上がる形になっている。ここが上手い。どんどん引き込まれていきます。
 妹の死と、彼女との別れの両方への鎮魂歌の意味が、この小説にはあるのです。
 この元恋人は、年上の男と結婚し外国に移住し、後に、その地で死ぬそうだ。

 1つ、彼の詩(小説の中に引用されていた)を紹介する。春と修羅 第二集 異稿

 そこが島でもなかったとき
 そこが陸でもなかったとき
 鱗をつけた優しい妻と
 かつてあすこにわたしは居た

 この詩に、宮沢の恋が凝縮されている。

 銀河鉄道は、黄泉の国へ向かう列車だった
 自分の世界に戻ったジョバンニは、電車で別れた親友カムパネルラが死んだことを知らされる

 この物語の背後には、「うらしま」がある。
「うらしま」は、「うなさか」海坂の違う言い方である。
 海坂とは、黄泉との境界にある坂のことです。
 我々の祖先が、「入る」と「渡る」を区別していたことを思い出しましたと長野さん。
「古事記」における「入る」は死。「渡る」は再生
 カンパネルラは死に
 ジョバンニは再生した。
 これは生と死の物語

 妹トシの死、恋人との別れ
 それを乗り越えていく宮沢賢治
 死者、別れた者に対する鎮魂歌が「銀河鉄道の夜」だった。
 これは、そういう小説です。
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のベビーユーザーのみが楽しめる読者を限定させた小説なので、銀河鉄道999のような物語を期待して読むと落胆します。
 
ページ数 224
読書時間 6時間
読了日 12/23

カムパネルラ版 銀河鉄道の夜 [ 長野 まゆみ ]
カムパネルラ版 銀河鉄道の夜 [ 長野 まゆみ ]

 中近東にいる商社勤めの友人が、夏に戻ってきた時に「読め」とくれた本。
 どうしても年内に読まなきゃならないと思い無理して読み始めましたが、いがいと楽しめた。ライトノベルです。それも20年近く前にヒットした作品。22巻まで続いてて、最新作は2018年の4月だから、今年ですね。今だに、熱いファンがいるみたいで下手なことは言えないので少し緊張します。

 5つの章にわかれていて、1つ1つの章で語り手が違います。
 パッチワークのように、物語を読み手がつなぎ合わせていかねばなりません。
 いきなり、都市伝説のようになっている「ブギーポップ」という銀河鉄道999という映画に出てくるメーテルでしたっけ、あれを少年にしたような不思議な男の子と竹田君は出会ってしまう。それが恋人の宮下藤花さんの別の人格なのです。
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 普通、戸惑うのですが竹田君は、すぐに、ブギーポップと友達になってしまう。ここで一章は終わり。その後、主人公であるはずのブギーポップは最終章まで出てこず。
 2章になると、違う話しのような展開になっていきます。
 100ページすぎても事件は起こらない。やばい地雷本かと思っていたら、中盤から急展開。おもしろくなっていきます。
 どうも、マンティコアという「見られたからには生かしてはおかぬ」というヤバい発言をする化け物が、女生徒に乗り移っていて人肉を食う展開みたい。ホラーなのか?。
 学校でたくさんの生徒が失踪している。その中の一人に紙城木さんがいて、この不良少女は脇役なのに話しをつなぐ連結器みたいな存在になっていて、バラバラだった物語の断片がゆっくりくっついていき、1つのストーリーに集約されていきます。
 世界観もいいし、ブギーポップや悪役のマンティコアという人間に作られたらしい化け物のキャラもよく作り込まれている。高校生たちの恋愛の話しも、共感でき感情移入しやすい話しです。人気作になるのは理解できます。おもしろかった。
 ただ、このラストがダメ。アニメのような正義は勝つ的な単純なものになっていて、やっぱりラノベだなと思う。それも男の子向け。
 続きを読むかと聞かれる、ファンの方たちには申し訳ないが?顔になってしまう。
 おもしろいが、それだけでした。22巻すべてを読みたいとは思わない。
 とりあえず、2巻は読んでみようかなとは思っています。
 
ページ数 296
読書時間 5時間
読了日 12/21
ブギーポップは笑わない (電撃文庫) [ 上遠野浩平 ]
ブギーポップは笑わない (電撃文庫) [ 上遠野浩平 ]

婚約者を追いかけて、鹿児島から東京にやってきた田舎のケーキ屋の娘が、洋菓子の世界の扉を開く物語でした。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。



 僕はよく、映画を見た後に原作本を読むことがある。
 積み上げ本の中に、この本を見つけたのは、そのためだった。
 あまり、若い女の子が主役の洋菓子・・・の本を手に取らないのです。
 そういうキャラじゃない。(((( ;゚д゚)))アワワワワ。
 これは美味な小説です。


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 恋人を連れ戻しに来たのですが、彼は、その洋菓子店を辞めていました。
 お金はない、行くところもない。
 その店、洋菓子店コアンドルにバイトとして働くことになります。
 住み込み。彼氏が見つかるまでの限定。仕事よりも男が生命。
 面白いのは、彼氏には、すでに新しい恋人がいた。自分は、本気で菓子職人になりたいと思った。
 ここから本格的にお仕事小説になっていきます。
 無口で嫌味な先輩。厳しいオーナー。優しいオーナーの夫の外人。
 そして、彼女を店まで案内してくれた謎の男十村。
 彼は、伝説のパティシエだった。
 
 大使館の仕事を引き受けた後、オーナーが怪我をする。
 すったもんだの末、この伝説のパティシエを担ぎ出す。
 見せ場の大使館での料理の前に、常連のよしかわさんにケーキを届けるシーンがあります。
 ここは、小説も映画もともに泣けました。
 ベタな病気ネタなのですが、ダメですね。簡単に仕掛けにからめとられてしまう。
 そして、見せ場。
 大使館の客の中に、小さな女の子がいて、彼女は豪華なディナーに一切、手をつけていない。
 不機嫌にすねている。
 ここで、十村の出番。
 彼の魔法のような洋菓子で、少女に笑顔が降臨する。

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 これ映画を見た時、たぶん、感動し泣いたと思う。
 テレビだと思うのですが・・・。
 だから、この本を買ってきた。
 でも、5年は放置してたと思うので、買ったことを、すぐに、後悔したのでしょうね。
 なぜ、この年末に・・・。
 それはクリスマスの宣伝を電車の中で見て
 ケーキが頭の中でダンスをし始めたからです。
 そして、単純な僕は、この明らかに薄っぺらい文章で書かれた小説に
 内容がわかっているというのに興奮し、ウルウル・・・
 つまり、こういうベタな感動ものが好きということです。
 それを再発見しました。
 映画化されていますので、ストーリーはよく出来ています。
 ちょっと幸せになれる物語でした。

ページ数 235ページ
読書時間 3時間半
読了日 12/19
洋菓子店コアンドル/江口洋介/蒼井優[新品]
洋菓子店コアンドル/江口洋介/蒼井優[新品]

この作品の着目する場所は、その最終局面の怒濤のような三段オチにある。これでもか、これでもかというほどに絨毯爆撃を繰り返し読者をジェットコースターに乗っているかの如く弄ぶ。まさに、道尾作品。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 
   下のラットマンの絵を見ていただきたい。


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 人間の列の中のラットマンの絵は、
に見えませんか?。
 動物の中のラットマンの絵は、ネズミに見えます。
 図をクリックし拡大して見ていただくとわかると思います。
 これは錯視です。錯覚。
 前後の文脈、命名、状況などにより、思い込むこと。
 作品のモチーフは、この思い込みです。
 
 過去に姉を寝たきりの父に殺害されたと思っている30男が主人公。
 彼は、学生時代の仲間とバンド活動をしています。
 メンバーの一人のひかりという女性と付き合っている。
 ひかりは、バンドを卒業し練習スタジオで働いていて、今は、妹の桂がメンバー
 この主人公の姫川は、恋人の妹ちゃんを好きになり浮気しています
 それも恋人が妊娠中です。
 恋人は、子供をおろそうとしている。

 ひかりが殺されたことで、物語は動き出す。
 そこにいたのは、バンドメンバーの4人のみ
 事故に思えるが、密室殺人だ。
 構成と文章力で、読者は姫川が犯人だとミスリードされてしまう。

 この主人公の姫川ですがダメな男。
 感情移入できません。クズです。
 バンドマンで、浮気して、恋人が死んでも平気。というか、犯人は姫川のように、姫川の視線で描かれているから、余計にそのように導かれていく。錯覚を利用しているのです。
 そして、姫川自身も錯覚している。
 たくさんの錯覚が事件をややこしくしている。
 過去でも現在でも複数の錯覚があり、混線しているような状況になっている。
 そこに、20数年前の姉の事件の真相が絡まり
 迷宮のようになっていき
 それが、だんだん現在の事件と絡まってくる
 
 後半、ガンガンどんでん返しを繰り返してくる。
 これでもか、これでもかという風にやってきます。
 明らかに若い読者層を意識した流れ。
 やりすぎ。うざい。疲れる。
 冷静に考えると、ちょっと・・・という場面もありますが、勢いで流されてしまいます。
 それが道尾流。
 オチはかなり強烈です。
 それも3段オチ。(最後の物も入れると4段)
 ひつこい。ひつこい。ひつこい。
 2段オチなら、余韻が残ったし着地も綺麗だったと思うのは、僕だけでしょうか?。
 それでも、読み終わると、これは、なかなかの傑作でしたという、いつもの道尾作品の感想に。
 評判通りの怒濤のオチに満足。
 道尾さんに、完全にミスリード(読者を誤った解釈に誘導するような文章のこと)させられました。
 こういう敗北感は心地よい。

ページ数:290
読書時間 7時間
読了日 12/18
ラットマン (光文社文庫) [ 道尾秀介 ]
ラットマン (光文社文庫) [ 道尾秀介 ]



日本からブラジルまで貫通する穴を掘る。それを、まじめにやろうとする人たちの話し。

ネタバレあり

 まともに考えると、日本から裏側のブラジルまで穴を掘るという出来事がどれだけ馬鹿げているか、それはすぐにわかる。
 意味が不明です。
 「だって、近道じゃありませんか?」
 と言われても納得できないし、地球の真ん中には、数千度のマントルがあるわけだし、固い所もあるでしょう。
 技術的にはどうするのよと言いたい。
 どうやら、温泉を掘る技術を使っているようだ。そして、実際に、温泉を掘り当てる。
 その政府の計画に警戒し探ってくるような動きがある。冷戦時代のポーランドの人や、北朝鮮の人と思われる人物たち。ディズニーランドで主人公がデートした女性は、この前殺された北朝鮮のリーダーの兄貴を思わせる人物の秘書だったりする。
 穴だよ、穴。
 どうして、そこまで警戒する。
 何を探るというか、何も探れてない。
 どう考えてもバカバカしい。このプロジェクトに、広報として雇われた鈴木という真面目な男が主人公だ。周囲の人間、作業員、技術者もまじめだ。
 この奇天烈な事業を真剣にやり、真剣に描いている。
 何の疑問もなく?。やり遂げようと努力している。
 こういう風に、自分のやってることが、何のためなのかも、よくわからずに真剣に働いている人は、たくさんいるのかもしれない。
 それ怖くありませんか?。

 この小説には、構造的な穴がある。技術的とか知識的とか、そういう意味です。
 不可能だ。
 少し頭のいい人ならわかる。
 だが、誰もそれを疑わない。
 それは、何かの比喩なのだろうか?。

 もし、この小説に技術的なことや、地学の知識などを導入し、色々と細かいディテールを考えてリアリティを出していったとする。
 その場合、たぶん、この物語のこのパワーは半減し面白さはかなり削られていくだろう。
 常識を無視することで、文学としての面白さを獲得した。それは、あのゴジラが放射能汚染で突然変異し産まれたという奇天烈な発想と同根だ。
 嘘の中から、物語は生まれる。
 これは嘘物語だ。
 作者は、大真面目に嘘をついている。
 登場人物は、その嘘に翻弄されている。

 たいていの人は、その整合性や現実性などを考えず、パーツとして努力し働いている。
 この30年に及ぶ、この努力は何なのか?。
 公共事業の中に、こういうことありませんか?。
 あなたの仕事は、これと同じではありませんか?
 意味は?
 成果は?
 コスパは?
 そもそも、何のためにやっている

 こんなバカみたいな論理
 なんで従う
 何も言わない


 どうして?
 どうして?
 どうして?

代替テキスト

 色々と読んでいて考えさせられた。
 主人公の鈴木さんは、ラストで穴の中に飛び込みます。
 たぶん、死にます。
 僕たちの中にも知らずに深い穴の中に落ちている人がいるのかもしれない
 この物語は、思考停止している日本人への警告だと、僕は思う。

 お前が穴に落ちてるんやろ。

 今年度、文藝賞受賞作品。

ページ数 160
読書時間 4時間
読了日 12/15

いつか深い穴に落ちるまで [ 山野辺 太郎 ]
いつか深い穴に落ちるまで [ 山野辺 太郎 ]



4
 
文藝冬号に掲載されていた短編小説です。

あの「東京プリズン」から6年ぶり・・・

母親と娘の話しかと思いきや
戦後直後の世界に飛び
そこにはマッカーサーや昭和天皇がいてという幻想小説

たぶん、右にも左にも配慮して
問題ないように意識して書かれているのだと思います
それでも、ちょっと、「いいのか、これ・・・」という部分も少しありました。
僕は、思想的には中道というか、よくわからない。
意見を述べるほどの知識もない。だから、正直に言うと煙にまかれたような内容にしか思えなかった。

物語の現代で箱が出てくる。
どうも、これが比喩のようだ。
天皇とは、その箱のようなものだということなのか。
個体ではなく、職名とか、便宜上の名前がある存在
マッカーサーが娼婦にこんなセリフを吐いています
「一億の首領制国家、こんな例は歴史にない。マジカルキングが支配する。しかし、マジカルキングは支配しない」
 つまり、戦前の日本でも天皇は象徴だった。箱だったということみたい。
そういえば、昭和天皇は戦争に消極的な対場だったと聞く
その箱の中身が何なのかもわからず
日本人は、それを信じてきた
日本の歴史は、天皇をその時の権力者が利用してきた歴史だそうです。
幕末の錦の御旗が例としてあげられていました。
つまり、象徴とは旗のことなのか?

マッカーサーが天皇の罪を問わなかったのは、天皇を利用し日本を統治したかったからだという。
「君たちの内政は、わたしたちによって青写真を描かれたものだ。相手国の憲法を書き換えるのが、戦争に勝つということだ」
東京裁判についても、こんな反論が娼婦からされている。
「契約という詐欺もあります。マンハッタンを、24ドルで買い取ったように、沖の砲門をこちらに向けて、われらが先祖たちに契約書へのサインをさせたように。東京裁判で事後法を使って、わたしたちを裁いたように」

こんな娼婦の発言もありました。
「わたしたちは自国の異分子を粛正していません」
そう私たちの社会は魔女狩りをしなかったし、指導者としてのヒトラーも毛沢東もポル・ポトも産まなかった。
わたしたちは、確かに内側の悪習を、狂気を、自分たちで止められなかった。
アメリカが占領者であるというと同時に救済者であるという側面も確かにあった。私たちの中にある暴走する暴力性のようなものは、今でもなくなったとは思えない。得体のしれない暴力は今でもなされる。

天皇のことは、こう言います
天皇は、そのときどきの為政者の人形だ。
天皇だけでなく、国民も人形だ
その意味で、天皇は日本の象徴だということらしい

憲法は、現代の神話だという。
神話が書かれたものであるならば、常に息を吹きかけなければ腐ってしまう
神話が腐った時、本当に真に危険なことが起きた

話しがあっちにいったり、こっちにいったり右往左往します。
だから、よくわからない。
作者は、現在の天皇には好意的。
それを強調しつつ、1つのことを主張していた。

箱は何でも入れる、寛容な入れ物に見えるけれど、非常時に「なぜその箱があるのか」という理由と、何が入っているのかを、説明できない。
寛容に平和に共存しているように見える箱の中身は、実は意思の統一がとれていない。
だから、非常時に同胞が一番の敵となりうる。
だから、手段と目的を取り違える。国と民を守るのが戦さであるのに、戦さのために死ねと言う。もともとは、その箱は自分で選んでいないという。被害者意識がある。それで誰もが責任逃れをする。最高責任者といえば、中心にはもともと、誰もいない。

つまり、日本の国の在り方を主張しているようです。
日本人は、空の箱のようなものである。
そのシンボルの天皇のように
寛容に色んなものを取り込むが、中身が何かもわかっていない
雰囲気や流れで行動する
ネットの過激なニュース。芸能人批判を見ていると、確かにそういう部分もある。
誰かが悪いのではなく、雰囲気で悪い方向に走ってしまう日本独特の空気批判?

たぶん、僕は作者の意図の10%も僕は理解できていないのでしょうね。

読書時間 3時間
読了日 12/16






戦争により分断した祖国が、戦後、共産党の一党独裁の悲劇にあい。国を脱出するしか仕方なくなった。ボートピープルだった作者の視線から見た移民の生き様は共感できます。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 私小説と言えば、一人称で読者を書き手の視線。内側にからめとるものだと思っていたのですが、この作品は散文というか、スケッチのように時系列も内容もバラバラ。感情移入したとたん、話しは次へ。だから、イライラさせられた。
 理由は簡単で、作者がベトナムから、ボートピープルとしてカナダに向かったのは10歳の時。つまり、記憶も曖昧だし、たぶん、そのこと自体を認知する力もなかった。だから、叔父さん、叔母さん、家族などの話しの寄せ集めとなったからでしょう。
 短い文節の頭を大きい文字で示したのは、従来の私小説のスタイルを意図的に逸脱しますよというメッセージなのだろう。
 話しはバラバラだが、1つの時代の出来事を書いている。そのバラバラの流れは、タイトルである「小川」として統合されるということなのだろう。
 だが、散文は集中できない。感情移入できない。これは致命的な構造上の欠点だと、僕には思えた。
 しかし、それを打ち消すくらいの言葉の力、思いが、この作品の中には内包している。
 ベトナム戦争は、資本主義勢力(アメリカ)と共産主義勢力の代理戦争である。直前の朝鮮戦争と同じ意味合いを持ち、朝鮮もベトナムも南北に分断した。
 作者はどうも中国系ベトナム人のようであり、裕福な家庭に生まれた。
 ベトナム戦争は、アメリカ(南ベトナム)の負けである。その後にやってくるのは、中国と同じ共産党の一党独裁の政権による偏った恐怖政治だ。
 北朝鮮のように教室や会社、家にホーチーミンの写真を飾らなくてはならなくなる。先祖の写真が氏の写真に取ってかえられたと、P95にある。
 もう少し作者の言葉に耳を傾けてみよう。
P42「アメリカの奴隷たちは、綿花畑で苦しみを歌うことができたが、ベトナムの女性たちは、心の中で悲しみが大きくなるままに任せていた」。悲しみの重みで腰が曲がり、もう立つこともできなくなった。
P72 夜の間に、共産主義の反逆者たちが地雷を埋め、昼間に、アメリカが撤去する。・・・ある日、若い娘が粉々にされた。周りを黄色いカボチャの花が囲んでいた。ひょっとして、あの娘は町にカボチャを売りに出かけるところだつたのかもしれない・・・。
P126 空間を引き裂くほどの銃声にもかかわらず、景色は変わらなかった。風が、この大きすぎるほどの愛と、言葉にならない苦しみの前を通り抜け、稲の若穂を揺らしていた。半分泥に埋まった息子の体を抱きしめる母は、涙を流し、叫び声をあげた。

 そして、もう1つ、難民収容所での話し
P23「男の子?、女の子?」ズボンのゴムを下げて性別を確認した。私たちは、あまりにも痩せていたので10歳の男の子と女の子の見わけもつかなかった。


 激しいまでの反戦のメッセージ。
 共産主義の一党独裁の矛盾。
 そして、国を逃げ出した後の苦難
 すべての原因は、国家がまともに機能していないからだ。
 この物語はよそ事じゃない
 今、まさに、同じことが起こっている
 それはシリアの難民問題だ
 この本を読むことで、僕は、シリアの移民の苦難に、一瞬、触れたような気持ちになった。
 国家が狂うと、結局、犠牲になるのは、その国の国民なのだ。
 それを、この作品は僕たちに教えてくれる。
 いい作品でした。読むに値する本です。

ページ数 145
読書時間 5時間

小川 [ キム・チュイ ]
小川 [ キム・チュイ ]

3413円の借した金に、あそこまで執着するのは、それだけ震災と、次にやってきた貧困が彼の心を蝕んだからなのだろう。文藝新人賞。今年度受賞作品。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 貧乏は、悪であるという言葉をよく耳にする。
 それは貧乏という状態が悪なのか?
 貧乏という状態が悪を引き込むのか?
この二つの不毛な議論にいきつくわけです。

 本作品は、第55回文藝新人賞受賞作品。
 モチーフは、震災。

 震災後の東北の田舎町に住む仮設住宅で商店を営む男が主人公。
 その店は、100年の歴史があるが、今は寂れていて
 仮設店舗を経営している。
 客は、1日によくて5人
 採算が合わない。年老いた母親の国民年金をあてにしている。
 つまり、極貧だ。

 主な客は、90歳の老婆。
 この店を頼りにして、毎日のように甘い物とかを買いにきてくれる。
 武田という学生時代の友人。
 彼は、町の大型スーパーで万引きをし、主人公の毅のところに持ってくる。無職。株売買で生計をたてているようだ。

 店は、老いた母親と毅の二人で経営していた。
 古川という昔からの客がいた。
 この男、ツケで買い物をしていく。
 3413円のツケ(借金)がある

 この物語の軸は、この男から毅が借金を取り返す話しです。
 3413円のツケ(借金)に、やたらと、この経営者母子はこだわります。
 この執着が凄まじい。
 ちなみに、毅の家も店も津波でやられてしまった。
 トラウマで潔癖症で手洗いが欠かせなくなっている。
 母親は、この古川の借金のことを気にかけすぎて体調を崩し寝込む
 介護をしなくてはならない。店は、先細っていく。街に人がいない。不安。不満。母親は店の廃業を口にする。無職になる不安。

 貧乏や不幸は悪であると言っていた人がいた。
 と冒頭に述べました。
 それは、貧乏を理由に、他者を攻撃することがあるからです。
 EU諸国での移民の排斥。米国での新しいアパルトヘイトもどきのイスラム差別。
 根底にあるのは貧困。格差社会への不満。そのはけ口として、さらに弱者で自分たちからすると、よくわからない人たちを攻撃する。排除する。つまり、弱い者いじめの構造。

 毅は、すべてを3413円のツケ(借金)があるのに、電話だけしてきて「明日返します」とか言って、やってこない古川を憎んでいる。
 彼は、金を返さない。なのに、電話をしてくる。必ず返すと言う。ついに、引っ越す。なのに、町から電話してきて「借金は返します」という言い訳する。
 毅は、自分の不幸たちは、この古川が3413円のツケ(借金)を返さないことが原因であると考える。
 つまり、責任転嫁。
 自分が貧しいのは、不幸なのは、すべて古川のせいだ。古川が悪いとなる。
 3413円の借金を、町まで取り立てに行く。しかし、不在。
 びっくりするのは、病気の母親が車で町の古川のアパートまで押しかけ、不在と知るや翌日の昼までねばり3413円を回収するという執念だ。それで体調が改善するというのだから不思議だ。
 なのに、ラストシーンでは、また、その古川が現れて、2000円のツケを受け入れる。
 また、同じことの繰り返しじゃないか。

 精神を病むほどなら、3000円程度の金に執着する必要もないし、また、貸すなんてありえない。
 まるで、不幸を自ら引き寄せているかのようである。

 つまり、この比喩は、津波なのではないか。
 波は、押し寄せては返し。
 「はんぷくするもの」である。
 震災の被害者の心の中も、このように反復し、この貧乏という状況、過疎という状況に対する不満が、行き場のない怒りが、ふりこのように・・・、右に左にということなのではないか。
 その場所から出て、東京なり大阪なりに移住すればいいのにという、僕たちの発想では見えてこない。何か、よくわからない、がんじがらめな心の状態があるのではないか。
 そういうことを考えさせられた震災の話しでした。
 賞の受賞、納得です。

ページ数 120
読書時間 2時間強
 

はんぷくするもの [ 日上 秀之 ]
はんぷくするもの [ 日上 秀之 ]

鎌倉の小さな文具店で代筆屋をしている女性が紡ぎだす、その優しい手紙と、人間関係が気がつくと入り込んできて胸元が温かくなっていました。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 何もとりたてて大きな事件は起こりません。
 優しい人しか出てきません。
 鎌倉の小さな文具店で、代筆屋をしている若い女性と、彼女の周辺の優しい人たち、お客さんたちの物語です。

 焚火のような作品でした。
 冷えて痛んだ身体を、じわじわと温めてくれて、気がつくと元気になっていたという感じ。

 代書屋という設定も良い、鎌倉の風土に合う。情景描写、食べ物の描写が上手。それで、また、癒される。
 彼女は、依頼人の心に寄り添い。紙、筆記具、文体などにこだわる。その優しさ気持ちが、小説全体からあぶり出しのように湧き上がってくる。
  例えば、長年の友に対する絶縁の手紙の依頼された時、彼女は羊皮紙という頑丈な紙を使い。鏡文字を使う。友としての年月を頑丈な紙で表現し、鏡文字は反対文字だから、そうなってしまった今。別れる理由の表現になります。
 ですが、このような1つ1つの仕事は軽く扱われ深堀りしてこない。濃密に関わらない、どういう事情なのかも聞かない。読者からすると、すごく気持ちが悪い。消化不良のまま放置されていきます。イメージとしては、床に優しさの欠片を広げていく感じ。全体で、この緩やかな雰囲気を演出しようという。でも、読み通すと、とても気分がいいのです。

 物語は、春、夏、秋、冬の4つに分かれています。
 春のエピソードを1つ紹介します。
 依頼にお悔やみの文を頼まれる。
 話しをよく聞くと、死んだのはお猿さん。
 それでも、鳩子(主人公)は必至に文面を言葉を探す。

P35 「世界中の悲しみという悲しみを、瞬間、涙腺を磁石のようにして吸い集める」
 こんな風にして、お猿さんのお悔やみの文を書く。
 そこにあるのは真心です。
 依頼人や受取人に対する感情移入です。

 先代(祖母)が鳩子に代書屋について語ったセリフ。P56
「・・・自分で自分の気持ちをすらすらと表現できる人は問題ないけど、そうでない人の為に代書をする。その方が、より気持ちが伝わるってことだってあるんだから・・・」

「ハムの脂が、淡雪のようにすぅつと舌の上でとろけていく」P131
ごくりと、喉がなりそうになる。
上手な表現。食べ物の描写がいい。

もう1つ、先代の教え・・・P155
文字は体で書くんだよ
「確かに、私は頭だけで書こうとしていたのかもしれない」

隣人のバーバラ夫人の幸せになる為の呪文 P166
「心の中で、キラキラっていうの。目を閉じてキラキラ、キラキラって、それだけでいいの。そうするとね、心の暗闇にどんどん星が増えて、きれいな星空が広がるの」

バーバラ夫人に鳩子が、「今までで一番の幸せはいつですか?」と質問 P252
「今に決まってるじゃない!」

最後に、祖母のことを思い出し泣く鳩子をおんぶして慰めるQPちゃんの父親 P333
「後悔なんてありえないです・・・・、失くしたものを追い求めるより、今、手の平に残っているものを大事にすればいいんだ・・・」
 この後、彼は鳩子に交際を申し込む。

 とてもポジティブで、優しい物語。
 良い作品でした。

ページ数 346
読書時間 9時間
読了日 12/7

ツバキ文具店 (幻冬舎文庫) [ 小川糸 ]
ツバキ文具店 (幻冬舎文庫) [ 小川糸 ]

ビブリア古書堂の事件手帖のブラックジャック編かと思いきや違った。三上さんがセレクトした傑作選。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 ビブリア古書堂シリーズが好きで、手にとってみた。
 三上延さんがセレクトした「ブラック・ジャック」の傑作選です。
 全部で15作品。すべて良かった。
 「ブラック・ジャック」は、何故か子供のころ、家に全巻あった。だから、懐かしかった。

 やはり、助手のピノコの誕生秘話が気にかかる。18歳の幼女。この話しには、ブラック・ジャックの人としての優しさが見てとれる。でも、この時代、こんな離れ業ができたのだろうか?。僕の産まれるずっと前ですよ。

 「ふたりの黒い医者」、この作品も気になる。
 安楽死がモチーフだ。
 今でも、この問題は議論されることがある。機械に繋がれて植物のように生きることに意味があるのか、どうか?。今は、延命治療拒否ができるが、この時代はできなかったんだよね。安楽死が商売になるのは少しだけ理解できる。

 「その子を殺すな」、この作品も気になる。
 霊能力者のような黒人が妊婦から子供をつかみ出す。
 でも、生まれた赤ちゃんは無頭児。
 生命の選別の問題だ。
 レントゲンで事前にわかっていたから救おうとしなかったブラックジャック。
 今なら、男か女かもわかる。病気も事前にわかり、産む産まないの事前の選択も可能だ。
 将来においては、美人の遺伝子を、肉体的に優れたアスリートの遺伝子を、頭脳明晰な秀才の遺伝子を自分に取り込むという世界がくるのかもしれない。
 生命の選別は、生きる殺すだけでなく、優劣の問題でもある。
 それが進歩なのか、それとも退歩なのか。
 ふと、宮本常一の失われた日本人の中の言葉が脳裏をかすめた。
 殺された生命の声は無視なんだよね。それって、江戸時代の間引きと同じですよね。

 そして「ふたりのジャン」。
 二人の脳がくっついている子供。
 手術で一人の脳を外し、実験動物のように残すという話しなのだが、ラストシーンは印象に残る。  
 生き残った方が、溶液の中で生きている脳の方を破壊し殺す。 
 セリフがしびれる。
「僕たちは実験動物じゃない。実験なんかに使われるのはいやだい。実験動物にされるくらいなら死んだほうがいいんだい」
 手術の前から、二人は生き残った方が、別の方を殺すと決めていた。
 これは、まっとうな思考だと思う。
 人は、実験動物じゃない!!!。
 最近、中国で人が作られた。
 それの賛否を少し、これは考えさせられる。
 あれは実験動物なのではないのか?

 とにかく、ブラックジャックは良い。
 漫画は、あまり読まないのですが、これは色々と考えさせられるし、50年とか40年とかの昔の話しなのに、人種差別とか、宗教とか、偏見とか、医療の問題とかおもしろいのです。
 三上さんのセレクトがいいんだよね。
 

ページ数:304
読書時間 3時間
読了日 12/2
ビブリア古書堂セレクトブック ブラック・ジャック編【電子書籍】[ 手塚 治虫 ]
ビブリア古書堂セレクトブック ブラック・ジャック編【電子書籍】[ 手塚 治虫 ]

どうかで読んだことがある展開なのだが、新しい。ジワリジワリと攻め込んでくる恐怖を体感させられた。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 「ぼきわんが、来る」の作者澤村伊智さんの第2弾が本作です。
 来週から、あの「ぼぎわん・・・」の映画が上映される。それを記念してという、こじつけで、この作品を読みました。おもしろかった。

 黒い着物を着た人形
 おかっぱ頭の
 赤い糸で顔をしばられた
 呪いの人形が
 全部、嘘、でたらめの都市伝説が
 子供のでっちあげのはずが
 人 殺 し にやってくる

 

 やたらと鈴木光司さんの「リング」をリスペクトしている。
 雰囲気は都市伝説の「リカちゃん電話」だ。

 「もしもし、わたしリカちゃん。今からお出かけするところなの」
 「もしもし、わたしリカちゃん。今お出かけ中なのよ」
 「もしもし、わたしリカちゃん。今、あなたの家の前にいるの」
 リカちゃんが家の前に?
 急いで玄関を開けて確認してみるが誰もいない。
 と思った次の瞬間、自宅の電話が鳴り響く。
 「もしもし、わたしリカちゃん。今、あなたの後ろにいるの」
 うぎゃーーーー 
 あれですよ。あれ。
 リカちゃん人形が殺しにやってくる。
 都市伝説。

 ずうのめ人形は
         最初は 遠くに
                 だんだん 近くに
 

目の前に
そして、その人を殺す
 
 主人公は、胡散臭いホラー雑誌の編集者藤間
 音信普通になったライター湯水を、バイトの大学生岩田君と二人で訪ねる
 そこで目の玉が繰りぬかれた酷い死体を発見
 そこに、焼け焦げた小説風の紙束が

 この小説の内容が、物語に深く関わってくる
 その小説を読むと、ずうのめ人形が現れて
 4日後に殺しに来る
 死ぬ
 「リング」の井戸の貞子のビデオみたいです
 読むと死ぬ
 呪いの小説

 
 ずうのめ人形は、リカちゃん電話
 どんどん距離を縮めてくる
 遠くから 近くに 目の前に 殺
 
 バイトの岩田が死に
 ミステリー小説のように、その呪いの小説の中身がじわじわと侵食してくる
 構成がうまい
 いじめっ子を殺す前に、こっくりさんのシーンを出したり
 父親を殺す前に、性的虐待を臭わせるような暴力を見せたり
 とにかく、演出が絶妙
 死へのタイムリミット4日間という
 この緊張感の中
 日本人形がじわじわ・・・
 遠くから 近く 目の前
 そして、ラスト近くの怒濤の伏線回収
 呪いの小説を書いた料理研究家の死で・・・
 これのすごいところは
 ずうのめ人形は、地下からくる
 マンションの高層階に住んでいた彼女だけが犠牲者でなく
 下の階の100人超の住民も虐殺されるというオチ
 すごかった。一気に読めました。おもしろい。

ページ数:464
読書時間 10時間

読了日 12/2
ずうのめ人形【電子書籍】[ 澤村伊智 ]
ずうのめ人形【電子書籍】[ 澤村伊智 ]
    • ぼぎわん・・・の映画
    • こんな人形なのかな

さすが、アシモフ。アベレージの高い本格推理の短編集だ。秋の夜長を感じさせない推理の数々。
 黒後家蜘蛛の会という会合がある。
 ここでは、6人の教養自慢の癖のある紳士たちと、ヘンリーという初老の礼儀正しい給仕が、ゲストを迎えて、美食と雑談と推理を楽しむという趣向なのである。
 女性禁止。なんだか差別的で、うちの国の国技のようでむかつくルールだが、今回は初老の女性が登場。「よきサマリア人」
 いきなり、若い男が乱入し、妹をレイプとした男を探してくれという「飛び入り」などバラエティにとんでいた。
 本格推理物の短編が12品。なかなかのものでした。
 本格推理というのは、基本、ストーリーは添え物で、とにかく、謎を解くことが目的で、この作品の場合、ヘンリーという給仕がその役割なのですが、その答え合わせの前に、自力で考えて解くのが楽しみなのです。色んなパターンがあり楽しめます。
 中には、無理なものもあります。地理的な話しなどがあり、アメリカ人でないと答えがわかってもピンとこないものもありました。それは海外の作品なので仕方ありません。
 良かった作品は「証明できますか?」「赤毛」「帰ってみれば?」の三作品。
 「証明できますか?」は、外国で身ぐるみはがされ、泊っていたホテルもわからなくなる。自分の身分が証明できない。その上、スパイだと疑われている。どうして、捜査官が彼をスパイだと疑っているのかは、最初の方でさりげなく触れてくるのですが、ヘンリーの謎ときが終わりやっと「そうか!」とわかった。この「やられた」という感覚が最高でした。
 「赤毛」は、自分が魔女だという美人の赤毛の妻が、レストランの前で彼と喧嘩して、いきなり、家に帰るとか言ってレストランに駆け込むも、姿が忽然と消えてしまうというもの。謎解きを聞けば、「何だ、そんなことか」ということなのですが、とにかく、赤毛が気になって思考をそっちに誘導されてしまいという作品。
「帰ってみれば?」は、同じ感じの4軒並んだ集合住宅に住んでいる銀行家が、泥酔し家に帰ると男が二人いて、偽札がテーブルの上に・・・。どうやら、家を間違えたようです。その犯罪者は、どの家の人間なのかという謎。これは、謎解きの前に、僕はわかりました。だから、楽しかったのかもしれません。
 本格推理物は、自分で謎を解く楽しみがあり、だから、すごく楽しい。やられた時も、それは、それで楽しい。


ページ数:377
読書時間 12時間
読了日 2018 11/22

【新品】【本】黒後家蜘蛛の会 4 アイザック・アシモフ/著 池央耿/訳
【新品】【本】黒後家蜘蛛の会 4 アイザック・アシモフ/著 池央耿/訳

梨木さんというと、優しいお婆さんと孫。不思議で優しいお話しというイメージですが、これも、そういう作品です。でも、ラストに猛烈なメッセージが。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 梨木さんの作品では、映画化もされた『西の魔女が死んだ』が、やはり、有名で好きなのですが、児童文学というくくりで捉えるのは少し嫌いで、むしろ、ファンタジーではないかと僕は思うのです。大人が読む本だと思っています。
 心臓を鷲掴みにしてくるような、何かが、このおとなしい異世界にはあります。そこが魅力です。

 この物語は、ようこさんという子供が主人公。
 彼女は、友達がリカちゃん人形を持っていたのをうらやましいと思います。
 その話しを聞いた。父方の祖母が、「りかさん」を送ってきてくれました。
 ただし、それは、あのみんなが知っている洋人形のリカちゃん人形ではなく、「りかさん」です。市松人形の。
 りかさんには、取扱説明書がありました。食事をします。食べるものも決まっています。何だか、ペットみたいです。
 そう、この「りかさん」。普通の人形じゃない。
 人形には、人の魂が宿ることがあると言われています。民俗学とかの本に、古い物や人形や道具には、そのような魂が宿るとも書かれています。だから、雑に扱ってはいけないのです。
 この「りかさん」。持ち主のようこさんと、テレパシーで会話ができます。
 実は、この設定が面白そうで、僕は、この本を買ってきました。
 登美子ちゃんという古い人形を収集している家にお邪魔して、そこで古い人形たちの歴史をかいまみるという物語です。
 最後に出てくる話しが、とても印象に残りました。
 汐汲人形の台座から見つかった、人形の焼け焦げた痕跡です。
 その人形の名前は、アビゲイルと言いまして、昭和2年にアメリカから送られてきた、青い目をした綺麗な洋風人形でした。
 最初は、皆に大切にされていましたが、だんだん、日本は戦争になっていき、日米戦争。あの太平洋戦争になります。
 登美子さんの亡き伯母さんが、この人形をとても愛していました。しかし、戦争中です。人形は敵国の物です。
 大人たちは、これを敵国にみたてました。
 かわいらしい人形の胸に竹槍を刺したり、焼いたり酷いことをします。
 その焼け焦げた残骸を、汐汲人形の台座に隠します。
 それが現在に見つかるという話し。
 もちろん、「りかさん」が活躍し、ようこさんと、お婆ちゃんも活躍します。ちょっと、心が棒のような物でかき乱されたような感じになる切ないラストになっています。
 こういう優しい物語の中に、戦争の虚しさを混ぜてこられると、すごく印象に残ります。
 他、ミケルの庭という短編も収録。
 

ページ数 262
読書時間 7時間
りかさん (新潮文庫) [ 梨木香歩 ]
りかさん (新潮文庫) [ 梨木香歩 ]
    • 市松人形

「僕を、あなたの部屋に連れて行って欲しい」と言って、ゲイの写真家の男は言う。
 彼は、見知らぬ男と恋人のふりをした写真を撮影している。
 出てくるのはゲイの人ばかりだ。
 彼は、数々の被写体との写真を通して、何を表現しているのか?
  その場限りの淡い感情、押し流されていく毎日
 危険な雰囲気にもなる
 それは、ゲイとゲイ
 密室
 しかたがない
 NYが舞台で、主人公が日本人の沖縄出身なのに、ジャックなんて名乗っているから、つまり、外人の名前しか出てこないので、海で男たちが戯れていても少しも嫌悪感は抱かない
 たぶん、そういう効果を狙ったのだろう。どぎつい性描写もなく、独特な繊細な文体で綴られていて、効果的に感情をキャッチする。
 ゲイの孤独、息苦しさ、苦悩
 少しずつ、溢れてくる思い・・・
 表題の「ストレンジ―」とは、ゲイのことなのだろう。
 モチーフは、ゲイの生き苦しさなのかな。
 それを爽やかに、まるで秋風か何かのように耳元で囁く
 そういう作品でした。おもしろかった。
 アメリカ3部作の完結編です。

文藝秋号 まだ、本になっていません。
読了日 11/4

ミステリーとは、殺人事件が起こってから始まるものという認識が変わった。これは、笑えます。めっちゃ、おもしろい!!。
 タイトルが、ミスコン女王が殺された なので、海外ミステリーになじみがない僕としては、コナンドイルの「シャーロック・ホームズ」的な展開。つまり、事件が起こる。それを探偵が解決するを想定しておりました。
 しかし、何か、違う・・・。
 主人公は、CIAの秘密諜報員のフォーチュン。
 本作は、シリーズ2作品目。田舎に隠れている理由はよくわからない。
 第一作目、「ワニの町へ来たスパイ」。これも評判が良いみたいですから、これを先に読むのが良いようです。人間関係も、ちょっと2作目からだとわかりずらく辛かったです。
 このフォーチュンが、元ミスコンの女王という偽装をして、身を隠しています。
 だから、春祭の企画の子供のミスコンの世話係に選ばれました。もう1人、世話係になっていたのが、本物の元ミスコンの女王のパンジー。美人だが、性格が性悪。
 ここから、一瞬、ネタバレします。
 子供企画のテーマは、「ロイヤル」。たぶん、王室ということなのかな。派手な王宮ドレスなどを子供に着せるということなのだと思いますが、フォーチュンは、スパイなのでわからない。で、ネットで調べて、あるレディを見つける。
 それが、レディ・ガガ

  • レディ・ガガ

 彼女は、子供にレディ・ガガをやらせようとし、元ミスコンの女王のパンジーと大喧嘩となるというコメディ的な展開。
 お話しは、こういう、お笑い的な感じが、ずっと、続きます。
 そのパンジーが殺されて、街中の人が、フォーチュンを犯人と疑う。
 そこで前作でも活躍した、何か過去がありそうなアイダとガーティというパワフルで、うざいおばさまの協力を得て事件を解決していくという話しです。
 このおばさんたち、銃に詳しかったり、ハッカーのような子供の知り合いがいたり、かなりの曲者。
 とにかく、おばさんたちなので、ミスを連発し、ハラハラドキドキの展開となる。ミステリーなので、内容は、詳しくは説明しませんが、元ミスコンの女王のパンジーは、高級娼婦のようなことをしていたみたいなのです。そこから、どんどん、坂道を転がるような面白展開。
 保安官助手のカーターといい雰囲気になったり、色んなおもしろ要素があり、アクションもあり、ドジも連発し、とにかく、笑えます。おばさんですから、啖呵1つとっても辛辣でスカッとします。
 ミステリーとしても、最後のドンデン返しがあり、そこそこやります。
 読んで損はないと思います。
 

高知弁が、猫語「--にゃ」だとわかり、とても嬉しい。この本を読めば、高知の自然に触れたくなる。良く出来たお仕事小説だ。
 有川浩さんのイメージを3つの言葉で表すと、「自衛隊」、「恋愛小説」、「読みやすい」となる。
 ほぼ、名著「阪急電車」のイメージだ。
 この作品は、お仕事小説というジャンルに、恋愛をからめてきている。所謂、女子受けのする作品だが、若手サラリーマン諸氏にも、たぶん、楽しめると思います。「自衛隊」は関係ないです。

 簡単に、ネタバレしないように、あらすじを説明します。だから、具体的なお仕事の部分は軽く触れる程度です。

 高知県に「おもてなし課」というのがあり、高知を観光立県にと考えています。それで、まずやったのが、他の県でも、すでに、やっている。観光特使を地元出身の有名人になってもらうことです。その人に、施設の無料パスポート付きの名刺を配って貰うという案。
 その特使の一人の有名小説家吉門から連絡がくる。1か月もほったらかしになってるが、話しはぽしゃったのかという問い合わせ。「いいえ・・・」
 公務員の時間間隔と民間のずれを感じさせられます。
 Time is money(タイム イズ マネー)。『時は金なり』という感覚がない。相手はボランティア。怒るのは当然。

この対応をしたのが、主人公の掛水。ぐだぐだのやる気のない職員。そんな男が、この小説家に変革されていきます。
 昔、「パンダ誘致論」という考えを高知で提唱していた元職員がいる。参考になるとアドバイスされ、掛水は、バイトの多紀と彼の経営する民宿清遠を訪ねるが、県庁に対して反発のある娘佐和にバケツの水をかけられるという、名前の通り「掛水」状態になります。
 清遠を仲間に引き込み、彼から、斬新な計画。高知の自然を観光の目玉にするという案を貰い。県庁の上層部に邪魔されながら、頑張っていくという物語です。
 ここには、お役所の民間とは違う感覚が違和感を持って描かれています。かなり「おかしな」感覚です。せっかく、頑張っている清遠を排除したり、掛水たちの邪魔をしたりと馬鹿集団です。
 この物語の魅力は、観光地としての高知の再発見でした。読んでいて行きたくなりました。特に、パラグライダーですか、空を飛ぶ、あれはやりたいですね。
 観光地をアピールする方法、そのために何をするのか。お仕事小説としての魅力も、いっぱい。異業種の知らない視点。仕事内容もわかるし、いろいろな発見もできる作品でした。
 恋愛小説としても成立していて、頑張っている掛水を多紀という民間感覚のあるバイトの女の子が支える姿は微笑ましい。
 後半、清遠がプロジェクトから離れると、物語は少し緩んでいきます。それまでの魅力が半減していき、仕事の方も専門的になり、その知識が作者の身に付いてないのか、上辺だけをなぞっている感じになり、恋愛の方に視線を逃がすことで、お茶を濁すという感じに見えました。それが少し残念です。有川さんのわかりやすい文体が、この手の難しい展開や議論に適してなかったのかもしれません。だから、小説としては、糞ずまり。すっきりした着地点を読者に提供していないと思うのです。


ページ数 461
読書時間 9時間
おすすめ度 75%

時代の最先端、辣腕経営者が語る100の経営哲学。


 


経営に関するお言葉が100個紹介されている。作者の経営哲学が良く表れています。
 読みやすい。この手の本は難解ですが、これなら読めます。
 でも、1つが見開き1ページ程度なので短かく内容も薄い気がした。読みやすさを優先させたのでしょうね。
 

 時価総額5兆円、日本を代表するエクセレントカンパニー・信越化学工業。代表取締役会長として同社を率い、上場企業最高齢である著者がこれまでの人生の中で体得した、珠玉の言葉100を掲載。
と紹介文。
 
 タイトルとなっている『常在戦場』というのは、太平洋戦争の軍人山本五十六の言葉で、<いつも戦場にいることを忘れず、いつでも戦えるように備えよ>という意味だそうです。経営は、そういうものなのですね。厳しい世界です。

 仕事の経験談がベースです。優秀な経営者の話しで、一般人にはピンとこない部分もありました。


少し、中身を具体的に・・・

・人事部門が強くなり過ぎると会社は危うくなる
 
 人事部の話し、わかります。派閥争いとか、あれはダメ。論功行賞もダメです。組織が淀みますからね。でも、これ日本企業の体質ですよ。終身雇用がある限り、狭いマスの中での戦いは続きます。

・必要な修繕は予算がなくてもすぐやるべきだ
 
 耳が痛い話しですね。でも、とても大切な話しだけど、金のない時は、どうしても我慢しろということになり、大切なところの予算が翌年になったり、必要のない経費が、翌年も出たり、部署のパワーバランスとかになりますからね。会社でも、省庁でも同じで、これは難しいが大切なことです。

・人を陥れるようなものは営業ではない。そんなことをやって一度は成功したとしても、大切な信用は決定的に失われる

 ウインウインですね。ビジネスとは信用であり、信用とは相手の利益も考えて、フェアな取引をするところから生まれるという話しはトランプに聞かせてあげたい。あのおっさんは、変ですからね。長く商売を続けるには、これは、とても大切なことです。

・モノは売る。技術は売らない

かっけーー。中国は、それでも技術をとっていく。

・易きにつくな、狭き門より入れ

わかっていてもできません。厳しすぎますよ。

・やり甲斐のある仕事を任せ、人が意気に感じるようにするのが、経営者の役割だ。

 残念ながら、そんな良い経営者はいません。やりがいよりも利益利益。目先のことばかり。だから、ダメなんですよ、日本。やり甲斐ある仕事は、自分が独占、くだらん仕事を部下にまわす。それが現実だ。さらに、悪いのは、部下の成功は上司の手柄にする。

 こういう素晴らしいトップに恵まれた信越化学はいいですね。しかし、このお爺さん。少し堅物で自慢癖がありそう。飲み会とか辛そうだな、部下の人・・・。


ページ数 269
読書時間 10時間
おすすめ度 80% 

*経営や管理職を目指している人向きですけどね。普通の主婦が読まれたら、たぶん、山本五十六がどうたらとか、私の会社では、こんなことやってる、みたいな話しで「うっ」となってしまうかもしれない。

切れ味鋭いダークな世界の短編集。まるで、映画を見ているかのように、気がつくと読み終わっていた。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 

 池波さんの作品は、好き嫌いがどうしても出てしまう。
 作者の代表作「鬼平犯科帳シリーズ」はご存知のとおり盗賊が主役だ。 
 この人、実に、巧妙に悪人を描く。この8つの短編にも、すべて悪人が出てくるが、ほぼ全員魅力的だ。
 映画を意識したような書き方も特徴で、テンポが速く。場面転換が鮮やかで、絵が見えてきそうな文章である。時代物の短編の名手といっても良いと思う。
 
 ここから一部ネタばれ

 印象に残った短編のあらすじを紹介します。

・「おみよは見た」・・・殺し屋の男が依頼を受けてある妾を殺すが、その時、そこの女中をしていた少女に目撃され逃げられてしまう。だが、少女は何も見ていないと証言する。その悪い女主人にいじめられていたからだ。それから、近くの食べ物屋に雇われる。そこで偶然に殺し屋と再会。悩んだ末、少女を消そうと考える。使いに行った同年配の少女を間違って殺してしまい。その時に、彼は捕縛され殺される。この男は、心の奥底で「殺したくない」という迷いがあり、それで態度が曖昧になる。その非情になれないところが、この男を最終的に死に追いやるという話し。

・「縄張り」・・・黒沢監督の用心棒という映画のように、親分の跡目争いを巡る両陣営から、双方の黒幕を殺すように大金で依頼されたNO3的な存在の殺し屋の話し。巧みな技で、1人目は殺すのだが、2人目は、すでに殺されていた。それも凄腕の仕事だった。家に帰ると罠が仕掛けてあり、主人公は、あっさり殺される。主人公を殺した暗殺者は、漁夫の利を得ようとしていた有力者が雇っていた。ラストシーンでは、まるで映画のように、その暗殺者を毒殺する真の悪人。気がつくと一気に読んでいた。

 
ページ数 332
読書時間 7時間
面白度  90%

おすすめの時代短編小説です。

ミステリー界の大物横山秀夫のデビュー作。アニメルパン三世とも微妙にタッチしている秀作でした。
 
 横山さんと言えば、警察小説の妙手として有名ですね。
 代表作は「半落ち」ですが、僕が好きなのは「クライマーズ・ハイ」
 そして、「64(ロクヨン)」。これは、絶対のおすすめです。
 「このミステリーがすごい!」のランキングの常連で、ヒット作を連発している大物です。

 その横山さんのデビュー作が、本作品です。
 ミステリーなので、ネタばれしないようにいきます。

 時効まで、残り1日という事件について、実は、自殺ではなく他殺だったという情報が上からおりてきた。
 それは15年前の学校での女性教師 嶺舞子 の飛び降り事件だった。
 三人の容疑者の名が上がる。喜多芳夫、竜見譲二郎、橘宗一。彼らは喫茶店ルパンを隠れ家にしていた不良学生だった。英語の文法教師のグラマーこと、色っぽい女教師 嶺舞子 の生徒だ。
 ルパンに、峰不二子なら、次元と五右衛門はと言いたくなるが、それは関係ない。
 時効成立まで24時間。この3人の取り調べから15年前の過去が浮き彫りにされていくというミステリーである。時効までの緊迫感というよりは、15年前の登場人物たちのその時の心理や思いを楽しむことができる作品でした。
 彼らは、この当時、ルパン作戦という計画を実行中で、それは試験問題をルパンさながら、学校の金庫より盗み出そうというものであった。これが泥棒なみにすごい。夜警をしている教師の目を盗むその行動はハラハラドキドキする。
 それは試験期間、毎日続き、その最終日に、被害者 嶺舞子 の死体を試験問題があるはずの金庫の中で見つけてしまうのである。
 嶺舞子は飛び降り自殺として処理されていた。だが、彼らは金庫の中に死体を見つける。しかし、答案を盗みに入っていたので、そのことは話せなかった。
 いろんな伏線が、蜘蛛の糸状に広がっていて、個性的な登場人物がたくさん登場してくる。
 嶺舞子は、xxだったとか・・・。
 そして、最後にバシッと決まる。解決する。そういう作品だ。ラストのシーンでは、少し感動に近い感情も抱く過去と現在のシンクロもあり、なかなか良かった。
 わざとらしく、ルパンねたをぶち込んだり、三億円事件をからませたり、これは、少し違和感を感じた。作者の若気の至りであろう。
 犯人がわかったと思ったら、別の真犯人がいたというラストの展開は捻りがあり良かったが、この真犯人が気にいらない。最初の犯人の方が話しがすっきりするし説得力もあると思う。。
 注目ポイントは、誰が時効まで、残り1日で情報提供したかです。それを気にしながら読むと、おもしろい角度で作品が楽しめると思います。


ページ数 441
読書時間 12時間
おすすめ度 75%


 芸人と侮るなかれ。発想豊かな作品群であった。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 


 有名なベストセラーなので、読まれた方も多いと思います。芸人さんの作品と敬遠していましたが、なかなかでした。
 5つの短編からなっており、それでいて繋がっていて、不思議な味わいを醸し出しております。
 道草 は、普通のサラリーマンがホームレスになるという話しです。ラストで、強烈などんでん返しがあり、メジャーに挑戦する前の巨人の上原のフォークボールのような抜群の切れ味がありました。
 拝啓、僕のアイドル様 は、キモいアイドルオタクの話し。これもラストに強烈なオチ。この男が、1話のホームレスとちょっとした関係があり、繋がっています。僕は、この話しが一番好きです。最後がいいです。ちよっと胸が熱くなる。
 ピンボケな私 は、好きになった男に騙されて、その友達とも寝てしまう話し。1話のホームレスの娘です。ミキという女友達風の親友がいて、それがラストで三木君。男だった。彼女を好きな男子だったという駄洒落のようなオチでした。純愛をされる女性が、こんなに軽いヤりマンでは、感情移入できるわけない。このオチを使うのなら、こんなキャラ設定はおかしいと思います。駄作です。
 oVerrun  は、ギャンブル狂の駅員が、オレオレ詐欺をしようとして、御婆さんを騙しかける話し。ラストのオチで涙腺が・・・。いい作品です。無理から、3作品目の少女を登場させたのはちょっと・・。
 鳴き砂を歩く犬  ・・・下ネタ芸人に、修学旅行でたまたま出会い恋に落ち、上京しストリップ劇場に住み込み彼と漫才をする少女の話し。完成度は高いのですが、このプードル氏の芸が馬鹿っぽく、それに、途中まで少女の視点だったのが、途中でプードル氏の視点に変化して、何か変な感じになります。視点変換は、読み手に優しくないですね。ラストの数十年後のオチはいいけど、oVerrunのあの婆さんが、あのストリッパーって強引すぎですよ。

 どの作品にも、ミステリーのようなどんでん返しがあり、他の話しの登場人物が出てきます。発想もアイデアも豊かです。普通の小説家ではしない、短編で視点変換とか、キャラの整合性が変とかありますが、そこそこ楽しめて、読みやすい短編集でした。文庫なら買ってもいいレベルですね。女子受けはしないかも・・・。


ページ数 221
読書時間 5時間
おすすめ度 75%

  日本に、国家破産などと、橘氏は何を考えているのか?。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。



 大切なことは、この本が書かれた日付です。
 2013年の3月
 
 アベノミクスが進むと3つのシナリオが想定されるらしい。
1、楽観シナリオ・・・成功し、株価と地価が上昇。賃金も増加。会社の収益も上がり、借金も返済できるようになる。
2、悲観シナリオ・・・金融緩和の効果なく。円高(70円あたりを想定しているよう)によるデフレが継続し、じり貧状態。
3、破滅シナリオ・・・国債価格の暴落(金利の急騰)、急激な円安。高インフレで財政破綻。大規模な金融危機が生じて、日本社会が深刻な状態になる。

その破滅シナリオには三段階あり
・第一ステージ・・・国債価格の下落と金利上昇
・第二ステージ・・・円安とインフレが過度に進行。国家債務の膨張が歯止めが利かなくなる
・最終ステージ・・・国家破産。政府が国債のデフォルトを宣告しIMFの管理下に入る

第一章で、国家破産していく日本の様を小説風にして危機感を煽っています

国債の価格急落で、ゆうちょ銀行が国有化。銀行が次から次に。急激な円安と過度なインフレ。株価の急落。会社の倒産、失業。不動産や会社が、どんどん外国人に買われていく。最後は、国家破産です。

橘さんは、この国家破産になった時に、自分を守る方法を2章以下で延々と語っています。

これも簡単にまとめると

 第一ステージは、資産を普通預金にしておけということ。金利が急上昇するから、利益が出るし資金を動かせる状態にしておく。
 第2ステージは、国債の価格が下落するのだから「日本国債ベアファンド」の購入。下がれば下がるだけ利益になります。円安になるので「外貨預金」に切り替え。インフレになれば元本が増える「物価連動国債」の購入。これで守れるそうです。
 最終ステージは、国家破綻しますから、お金を外国に逃がします。「海外銀行の外貨預金」。国債が下落し続けるので、アメリカで「日本国債ベアETF」の購入。つまり、日本の国債が下がれば下がるほど儲かる。

 これで資金は、現状維持に近い状態で保守できるとのことです。
 
 さらに、利益を得るなら・・・。
 
 国家破綻なら、国がボロボロになるのですから、急激な円安となります。お金が、くず紙みたいになります。
 だから、FXです。
 20倍のリバレッジかけて大儲けしろと薦めている。
 この話し読んでいて「お前,クズだなと思いました」
 この状態になると自殺者続出のはずです。
 株価が大暴落するので、信用売り。先物、オプションで、これも最大限のリバレッジかける。最大20倍にしろとのことです。確実に下がるから、ホリエモンになりますね。資産数十億。
 金儲けとしては正しいでしょう。
 だが、ハイエナだね。
糞野郎だよ。
 戦場で、コンビニ強盗するみたいで嫌だよ。
 みんなが死にかけているのに、どうなのかなと思う。
 国家破綻を楽しんでいるように思えた。
 この最後のFXとか、先物、オプションとかは、みんなやるでしょ。わざわざ指摘してもらうほどの有益な情報ではありません。

 こんな風なことを経済の専門的な知識を動員し、すごく細かく。難しいところはコラムにして、懇切丁寧に解説している本です。だから、経済に興味がある人は、そこそこ楽しめます。

 2018年9月 日経平均 23000円前後 為替は110円前後 会社の収益は、かなり改善し、民主党政権時代の為替70円。株価10000円のデフレ不況からは完全に脱している。
 雇用も増え。都心に住んでいればわかりますが、人手不足で、コンビニの深夜は外国人の店員が多い。バイト代安いかららしいです。
 賃金の急激なアップと人手不足で小売業が不振になっていて、利益を圧迫している。赤字国債の解消には、まだ、ほど遠いがアベノミクスの成功で日本経済は何とか持ち直すかもという現状です。楽観シナリオになりかけています。

 絶対にないとは言えませんが、国家破綻なんて今は考えられない。どうして、こんな本を出したのか。よくわかりません。2018年9月には無用の本です。
 この本は、経済的な知識がないと、たぶん、よくわからないと思います。別に、読む必要もないと思います。

 ずっと、数字と理論ばかりでした。それに書いていたことは、当たり前のことばかりで新鮮味がなかった。ストレスが溜まる本です。僕には、子供のころのノストラダムスが、どうのこうのって話しと同じにしか思えません。


ページ数 224
読書時間 8時間
おすすめ度 10%

医療関係者の言うところの「意識の混濁」を別の仏教の視点から見た作品。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

    



 作者、玄侑宗久さんは、芥川賞作家で僧侶。
 この作品は、ある女性の「死の体験」がベースになったものだそうです。
 主人公の老齢の女性は末期の癌でした。娘婿の優しい僧侶と、娘に看病され病院に入院していた。
 医療関係者の言うところの「意識の混濁」が起こる。死んだ人や光や過去の光景が目の前に現実のことのように現れます。時間間隔が曖昧になっていきます。
 過去のことなのか現在なのか時間の流れの感覚が消失していきます。だんだん、それが曖昧になっていくのです。この世とあの世のボーダーラインが曖昧に。
 

 ページ30 娘婿の僧の慰めの言葉

本当は、人によって時間の過ぎ方は違うんです。そんなものが他人と違ってきたとしても、あまり、慌てることはないと思いますよ


 病人に、アインシュタインの理論まで話して聞かせます。

さらに、この僧は、死んだ人が見えることについては、人間は死ぬと量子になりと説明し

ページ45ページ

お父さんを構成していた量子がぜんぶ地球上、いや、宇宙にはあるわけだから、それが、ふとしたことでまとまって・・・


と義母を安心させる。とても優しい婿殿です。

ちなみに、この本のタイトル アミターバ 無量光明 は・・・

ページ61

アミターバ。つまり、 無量の光。・・・要するに阿弥陀さんです。・・・極楽浄土てのは、何か、私らには計り知りぬ存在の意思や思いが実現している場所らしい。それを疑わないことです


このように、僧侶の知識で義母を安心させます。

 どうやら、作者は死ぬと人間は量子。発行体。光のようなものになり、極楽浄土に行くと考えているようです。

 この母親は、死ぬといろんな所に顔を出します。もちろん、発行体としてです。最後は、光の中心に飛んでいきます。

『死んだらどうなるの?』という疑問に、僧侶の作者が答えた小説とも言えます。



 神話をモチーフにしたような雰囲気の不思議な話し。されど、尻切れトンボみたいに終わってしまう。これでは、物語が操縦不能になります。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 

 作者の酒見賢一さんは「後宮小説」で第一回日本ファンタジーノベル大賞を獲得しています。これは日本で言う大奥のような話しで、ちょっとエロい。他にも「墨攻」など中国歴史もの作家として活躍しています。僕は、この2つしか読んだことはありません。
 だから、これはエロい話しかと思った。タイトルは「童貞」。作者は、酒見さん。だが、違った。簡単に言うと母系社会の中で、葛藤し、その枠内から抜け出す男の話しです。その先に、父系社会があるということでしょう。
 
 まずは、シャのシィのグンが残酷な殺され方をします。この村は、母系が支配している。女が偉いのです。男は種馬扱い。
 河の氾濫を河川工事により解消しようとしたが失敗し殺されました。シャーマニズム的な時代みたい。生贄とか、河の女神とか言うてます。
 シャのシィのユウというグンの弟分が主役。この子、美形な為お姉ちゃんたちに弄ばれていた。で、女嫌い。子供のころ、家出をした時に出会った異民族の少女が気になっている。
 この村じゃ、女性が男を誘い。男は女のいいなりになりますが、それを拒絶。生贄として殺されることに決定。ぶち切れたユウは、村人たちを虐殺し村を出て、その異民族の人たちと再会し、そこであの少女と出会い。妻にするという話しです。
 女に選ばれる社会から、女を選び。そして、ともに生きる社会へということなのでしょう。
 神話のような感じがしました。何か、ベースになる話しがあるのだと思います。
 ラストシーンが消化不良な為、物語の着地がうまくいっていない気がしました。


ページ数 146
読書時間 3時間
おすすめ度 35%

無政府状態の混沌を描いた衝撃の作品。人は、ほんとうに、ここまで愚かで、残酷になれるのだろうか!!。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 まず、警官が移民の多い地域の団地におもむく、そこにいたジャンキーの集団が、いきなり襲ってきて、警察犬と警官を殺してしまい。残された二人の警官を包囲し殺そうとする。
 無理設定なのだが、そういう状況になり警官は過剰防衛し、彼らを取り囲んでいた7人の移民を射殺した。それに怒った移民たちが暴動を起こす。もちろん、警官は正当防衛です。
 いきなり、こんな導入部なのだが、今、EU諸国では移民の問題がクローズアップされていて、右翼が勢力を伸ばしている。トランプ大統領の保護主義。メキシコとの国境に壁を作り移民を入れないという考えもそこに繋がっていて、それが先進国の大きな流れになっているようなのだ。フランスでは、パリ同時多発テロや、̪ㇱャリル・エブド事件などが発生しています。
 そういうこともあり、フランスでは多様性を重んじよう、つまり、移民に寛容にという考えが浸透しています。半面、それに反発する右翼も台頭しています。
 話しを本筋に戻します。この事件、移民の暴動は警察への攻撃やテロ的な側面を帯びてきますが、自分の保身だけを考えている無能な左翼的な政治家や、真実を隠そうとする左翼的なメディアによって、この事件の悪者がまるで警官のようにされてしまい。移民の暴動は問題にされません。だから、国民たちは、移民を責めず警官を悪者にしています。それは殺されるまで気づかないという愚かさです。
 すぐに、電源が遮断されライフラインが切断され、無政府状態となり、移民たちは暴力と殺戮とレイプと強奪に走ります。これも、かなりの無理筋ですが、1日目からそうなり、陰惨な無差別殺戮が繰り返されます。事件から3日間の無政府状態を描いたのが、この作品です。とにかく、暴力の嵐でした。全編、理不尽な暴力に占拠されており、とんでもないことになっています。ホラー映画さながらという展開でした。
 滑稽なのは、国民です。政治家です。大統領は、人を殺しまくっている暴動の中心地にメディアを引き連れて話し合いに行きます。そこで、すぐに、殺されます。どころか、彼ら移民は大統領のケツを掘ろうとします。何で簡単に殺したのかと怒りまくります。
 ゾェという人気左翼ブロガーは、わざわざ現地に行き、恐ろしい目にあい。目の前で仲間や警官が殺されても移民たちは善と信じます。隠れていたのに呼ばれると鍵を開け友達の前でレイプされ、他の奴らにも回されそうになり、男友達が目の前で油をかけられ、それに火をつけろと命じられ、やっと拒絶するも、その男友達は燃え死に、友達を殺した男についていきます。完全に思考停止です。
 警察もひどい。非難されているからと言って、動物園で無差別殺人をしている移民の男を目の前にして、何もしない。逃がす。銃を手にしません。
 殺されかけて、病院に運ばれた女性は医者に移民たちは悪くないと言います。

 医者と患者の会話 212ページ
・・・自分は白人だから、殴られる正当な権利がある。あなたは、そう思っているんだ

 このセリフ、腑に落ちました。ここで描かれているフランス人の一般人は、多様性を重んじようとするあまり。つまり、移民に寛容になろうとするあまり、現実に起こっていることが見えなくなっているのです。思考停止状態です。これでは無政府状態なつてもしかたありません。

66ページに、フォンテーヌの言葉が引用されてあります。
カメレオン国民。主人の猿真似をする国民。1つの精神が千の肉体を動かしているともいえよう。それでこそ、人々は単なる機械になっている


 このフランス国民のこの態度はゾッとします。
 最近、同じ感覚を覚えました。
 百田さんの小説「カエルの楽園」です。あのカエルたちも、こんな風に、抵抗もせず不気味に死んでいきました。

 本作品が言いたいのは、無政府主義下の混沌の極限状態になると、人間は欲望のまま、とんでもないことをするということなのでしょう。
 移民の怖さや、左翼や右翼の愚かさも描かれてはいますが、本筋は法秩序のない世界の恐怖と、それが、すごく泥弱な基盤の上になりたっているという警告だと思いました。

 大災害のパニックで、こうなることもありうるので肝に銘じておかねばなりません。

高田さんの作品は好きなのですが・・・
 この人の作品は、銀二貫やみをつくし料理帖シリーズなど名作が多い。商売の話しが多いのですが、これは違った。関という医者の妻の話しです。
 時代は幕末。農村で育ったあいが、医者のという人に嫁ぐ話しです。前半部分はかなりおもしろく、義理の母の年子のキャラがいい。機織りの話しはかなり良いですよ。それが結婚して銚子に行き。そこで医者の旦那を支えるんだけど、そこまではいいんだけど徳島で殿様の医者。つまり武家になります。そこらから少しずつ話しのテンポが悪くなっていき、ラストの北海道に行くくだりではボロボロになっていきます。アイヌ差別に激怒したり、あっさり心臓病で死んだり、子供をほっぼらかして、こいつは何んじゃと思った。わけわからん。子供が1ダースほどもいて、たくさん死ぬ。
 ノンフィクションなのかな。実在の人物だし、だから、制約があり作品としての魅力がなくなる。悪くはないが、後半の勢いの無さはちょっと辛い。平均点より少し上くらいの作品だと思う。

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