余命わずかな受刑者に、彼は、真っ白な雪を見せてやることはできたのだろうか?。バリー賞など3冠の作者デビュー作。
免罪で30年も刑務所に入れられていたとして、それを、どのように償えばいいのか?。
人生の大半が台無しなのだ。
僕は、この物語を読み、ふと、考え込んでしまった。
自分が、そんな理不尽な目にあったとしたら、途中で絶望し自死するだろう。
大学生のジョーは、大学の英語の課題で年寄りの話しをインタビューしなくてはならない。
だが、彼には祖父も、知り合いの老人もいなかった。
紹介された老人ホームの老人は末期がん。
彼は、30年前に14歳の少女をレイプし焼き殺した極悪人だった。
だが、話しを聞いていると「俺は、やっていない」と言う。
裁判記録を取り寄せて、本格的に調べるジョー
すると、これは何か変だと思えてくる
老人は、末期がんだ。時間がない。
「雪が見たい・・・」と老人は言う。
ジョーは、老人の無実を証明し、彼が見たいという雪を見せてやりたいと思うのだった。
この時間的な制約が、この物語の魅力の一つなのです。
老人は日々、衰えてくる。残り数週間の生命だ。
この白い雪とは、自分の身の上に降りかかった嫌疑を取り除きたい。
真っ白な・・・という比喩だと思います。
だから、タイトルは「償いの雪が降りつもる」なのです。
さて、この作品、ミステリーとしては単純です。
おもしろいのですが、犯人は消去法でわかります。
捻りはあるものの、それだって、完全なミスリードだし。
「やっぱりな・・・」と最後は思うのですが、そんなの関係ないくらい面白い。
被害者少女の残した暗号の解読。
この部分は、よくできていた。
そこから浮かび上がってきた。別の事件。
ネタばれになるので、ここまでにしますが、後半どんどん面白くなっていきます。
アクションシーンも秀逸で、ドキドキの展開。ラストまで気が抜けません。
30年前の事件なので、登場人物の過去が頻繁に出てきます
老人が、ベトナム戦争に参加した時の英雄的な所業で、ジョーは一気に老人の無実を信じます。
これが友達からと、本人からの二段攻撃なので、余計に心に沁みてきて
「ぜひ、この人の無実を証明してくれよ」という気持ちにさせられます。上手い演出です。
そして、ジョーを取り巻く現実の世界も複雑です。
自分勝手な母。暴力的な母の男。そして、自閉症の18歳の弟。
ジョーは、大学に通うため、一人暮らしをしております。
この現実が、真冬の雪のようにジョーの屋根にゆっくりと重さを増してくるのです。
この息苦しさ。弟が暴力を受けているのに、自分の都合で放置している罪悪感。それも、この物語の魅力でした。
そして、魅力的な隣人。ライラという女学生の存在。
過去と現在が、交差し、複雑怪奇な化学反応を引き起こしておりました。
おもしろかった。特に、後半の犯人とのバトル。ラストの雪の降り積もった場所での人質交換。最後の最後まで目が離せない緊迫感。
老人の死までに、ジョーは潔白を晴らすことができるのか?。
いい作品でした。
ページ数:402
読書時間 12時間
読了 1/28
償いの雪が降る (創元推理文庫) [ アレン・エスケンス ]
償いの雪が降る【電子書籍】[ アレン・エスケンス ]