これを読んだ後では、すべての本は、その重力を失ってしまうのではないかと思うのです。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。



 国家とは何なのだろう?。
 その目的は何か?。
 安全を守ること。
 これが第一だ。
 外敵から、自分や家族、仲間を守る。
 しかし・・・。

 この世界は弱肉強食だ。これは歴史が証明している。
 弱者は骨の髄まで食い荒らされるのだ。
 例えば、誰も言わないが広島、長崎の原爆投下。
 一瞬にして数十万の生命を奪った大量虐殺行為。
 あれはナチスのユダヤ虐殺や、インディアン虐殺と同質のジェノサイドだ。
 国家は、それを防ぐために存在している。
 そのための集団的自衛権なのだと思う。
 しかし、この物語の舞台のイラクには
 国家と呼べる国が存在していなかった。
 アメリカがフセイン政権を崩壊させたからだ。
 そこに、フセインの残党?
 宗教対立?
とにかく、あの国
 イスラム国のISISが沸き起こった。
 彼らは、暴力で国を支配しようとした。
 本書の主人公ナディアは、イラク北部のマイノリティ宗教であるヤズィディ教徒だった。
 ムスリムの何とか派からすると
 彼女たちは異端
 悪魔崇拝者
 だから、何をやってもいい
 占領し
 学校に集め
 男たちを皆殺し
 若い女たちはバスに乗せて
 奴隷市場に運び
 売り、与え
 まるで、物のように扱い
 レイプする
 殴る、蹴る
 理不尽な行い。宗教の信者とは思えぬ傍若無人なる所業

P165
ISISと共にする時間は、その1秒1秒がゆっくりとして痛みを伴う死の一部だ。-肉体と魂の。そして、バスの中でアブー・バタトとのあの瞬間から、私の死は始まった

P170
ヤズィディ教徒の女性は不信者と考えられ、また、戦闘員らによるコーランの解釈によると奴隷をレイプすることは罪ではないという。中略。私たちは、もはや、人間ではなかった。私たちはザビーヤ(性奴隷)にされたのだ

宗教とは人々の平和と安寧を願うものです。奴隷はレイプしてもいいという時点で、こんなのオウム真理教レベルの似非だとか思えない。

P222
レイプほどひどいものはない。それは私たちから人間性を奪い、将来への希望、つまり、ヤズィディ教徒の社会へ戻り、結婚し、子供を持つという将来を思い描くことすら不可能にしてしまった。そんなことをされるくらいなら殺された方がましだと、私たちは思った

「逃げたければ逃げるがいい」とハッジ・サルマーンは言った。「たとえ家にたどり着けたとしても、お前の父親か叔父に殺されるだけだ。お前は、もう処女ではない。それにムスリムなのだからな!

P254
ある時点を過ぎたときから、レイプ以外何もなくなった。それが日常になっていた。次に誰がドアを開け、襲ってくるかわからない。ただ、それは起こり、明日は今日よりひどいかもしれない。中略。そこでは、あなたの身体は、もう、あなたのものでなく、話す力も、戦う力も、外の世界について考える力ももう出てこない。これがあなたの人生なのだと受け入れてしまえば、もうそこにはレイプと無感覚しかないのだ

 彼女は幸いに、逃げ出すことができた。親切なムスリムの家族と出会い脱出した。
 これは現実の物語。
 国家がまともに機能していないということは、こういう理不尽を受け入れなければならぬということ。
 生命や、財産が嘘みたいに略奪され
 人すらも物のように扱われる。
 ISISが、特別に極悪なのではない
 歴史上、何度も何度も繰り返されてきた悲劇
 それが今、この21世紀にも起こっているというのが問題なのだと思いました。
 こんなことは繰り返してはならない。
 今,頭の中で怒りが渦を巻いてる。
 読むのに苦労したが、読んでよかった。

へー字数 430
読書時間 13時間
読了日 2019 1/4

THE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語ー【電子書籍】[ ナディア・ムラド ]
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