「みそ、みそ、みそ、手前みそ。うちでつくろう、うちの味。おみそ、みそ、みそ、手前みそ・・・。」 つまり、発酵の話しです。それを文化人類学でアプローチしています。面白かったです。


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※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。



 発酵食品と言えば、味噌、醤油、酒、ワイン、ビール・・・。
 たくさんあります。
 例えばビール、このように作者は言っています。

 これはつまり、酵素のおなら(炭酸ガス)とおしっこ(エタノール)を飲んで喜んでいる・・・。

 発酵とは、アバウトに言うと、米とか麦とか大豆とかを
 カビとか菌が食って、それで生み出した。うんこみたいなものです。
 と、この本には書いてあります。

 本の内容は、発酵の話しを文化人類学的なアプローチで語ろうってことでした。
 「・・・であるよ」という語り口調が、読み終えた後も余韻として残っている。
 これで発酵のことが、すべて理解できるというほどの専門書じゃなく、初心者向け。
 語り口調も事例もわかりやすく、どんどん入ってくるのがわかった。
 話しは色んな方向に飛ぶので、結局、この本は何なのだという思いもあるのだが、色んな知識、自分とは違う発想に触れることができ、僕はとてもごきげんになりました。
 
 どういう風に文化人類学と発酵学をコラボしているのかというと、例えば、中国の酒と日本の酒の比較とかです。
 中国も日本もカビの文化圏だが、使っているカビの種類が違う。
 中国の紹興酒を飲む人ならわかりますが、あれは熟成するほど美味になり、何年物。何十年物というほど価値が出てくる。それは使われているカビが、たいていの環境にも耐えられるようなものだからです。
 それに対して日本の酒は、ナーバスです。仕込む時期も、温度も決まり事が多い。ちょっとしたことで味が変化する。なるべく早くに飲むのがおいしい。
 それはお茶でもそうです。中国のお茶は、熟成させて発酵させるものが多いのです。何年物とか、そういうのが価値があるが、日本のは、すぐに飲みます。それが美味い。
 日本と中国では、思考や捉え方の期間も違います。中国は計画的に、遠くを見て時間をかけてやってきます。それに対して、日本は目先のことばかりにとらわれる。
 それは食文化。カビの違い。文化の違いだと作者は言っています。
 食文化(カビ)の違いは、思考回路にも影響してくるということです。
 
 発酵人類学とは何か?。
 発酵を通して、人類の謎をひも解くことだそうです。


 今は、冷蔵庫とかありますが、昔は、そんなものはなかったわけで
 発酵させることで長期保存をはかったということのようです
 そしたら、いがいと美味となった
 酒が産まれた。味噌が産まれた、ワインが産まれたということみたい。

 酒は、米から作るわけですが
 その初出は、かなり古い
 神話に出てくる、やまたのおろちの話しがあるでしょ。
 あんな時代から、酒はあったということみたいです。
 発酵食品の歴史はいがいと古いのです。

 碁石茶などの具体的な発酵食品の紹介をしたり、実際の発酵食品の仕事に従事している人、手前みそ(自分たちで味噌を作る)活動を紹介したり、色んな角度で発酵にアプローチしていきます。

 マリノフスキーのトロブリアント諸島の事例(クラ)とか、レヴィ・ストロースの主張などを引用し、発酵を秩序立てていきます。

 発酵とは、糖分を食べて、乳酸とエネルギーに分解することなんですよ。

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ヨーグルトは、菌のゴミを人間が引き取ってリサイクルしている。

微生物にとっての「ゴミ」が人間にとっての「宝物」となる。

はい、ここ注目、これが発酵の要諦ですよ。

人間と微生物という異なる生物が、地球における物質循環という巨大なマーケットで、「取引」をする。人間は乳酸菌の為に牛乳のプールを用意する。乳酸菌は、そこで乳酸を生産する。その結果が「ヨーグルト」という発酵食品として結実する。


 発酵とは、微生物からの贈り物だけど、微生物は、贈り物とは思っていない。それが、マリノフスキーの「クラ」に似ているという話しです。
「クラ」というのは、太平洋に浮かぶ島々での、贈与の習慣です。それによって関係を円滑にして、平和が保たれるというシステムです。
 部族間の間での良好な関係を、人間と微生物に置き換えたのかな。
 とにかく、発酵は人間の生活をより豊かにした。
 これは素晴らしいというのが、作者の言いたかったことだと思います。
 とてもおもしろい本でした。
 この方の他の作品も探してきて読みたいと思いました。



 ページ数:384
 読書時間 7時間
 読了日 2/28


発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ [ 小倉ヒラク ]
発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ [ 小倉ヒラク ]